>>484
持ってきた

絶望先生はただ職業的に風浦を知っただけではなく、彼女の生前を知っていた。
道ですれ違った風浦の帽子が風で飛ばされたので、
拾って渡そうと声をかけ引き止めた瞬間、風浦は車に轢かれて亡くなってしまった。

彼女の死は自分のせいだと絶望先生はずっと自らを責めており、
そして、他人の肉体を介してとはいえ、自分と数年間の学校生活を送った風浦に惹かれるようになっていた。
風浦も同じ思いを抱いており、それは何度も「風浦」となっていたレシピエントの生徒たちも同様だった。

卒業式から数年後。
離島にて、複数の女性と暮らす男がいると聞き、事件の匂いを嗅ぎつけた女性記者が絶望先生のもとを訪れた。
絶望先生は「いえ、妻は一人だけです」と答えるが、
記者が観察したところ、実際には家に複数の女性が暮らしているようだったし、
訪れるたびに絶望先生は「妻はこの一人だけ」と言いつつも、紹介する女性はバラバラだった。

不審がる記者に、絶望先生の親族は言った。
「彼にとっては妻は一人なんです。全員で一人なんです。
たった一人の女性の、ある時は眼球を、ある時は心臓を、ある時は血を愛するのです」
記者は気味悪がって離島から出ようとしたが、その際に事故に遭ってしまった。
絶望先生の妻たちは彼女に輸血を行いながら、またお嫁さんが増えるねと言い合った。