ねんううはそわそわしていた。ううりがロシアに行く準備をしていたからだ。
みんながよかったねと口々に言っているところを見るとううりが出て行くのはとてもいいことらしい。
だからいつもより豪華な食事が並んでいる。人もたくさん来ていた。
ねんううはたくさんの人が苦手だ。皆がねんううを可愛がって触りたがるが好きじゃない。
「あれ?ねんううは?」
「んー?僕のお尻」
ううりの姉はううりのお尻にへばりつくようにして身を隠しているねんううを見て一瞬笑うと配膳に戻った。
居所がわかればそれでいい。ねんううは彼女のこういうところが好きだ。不用意に撫でてこない。それはううりも同じだが…
少しくらいなら撫でてくれてもいいのにと思う。いや少しじゃなくていっぱいでもいい。
ううりは飼い主だからいいのだ。しかしううりは我関せずで美味しそうにカツ丼を頬張っていた。
「ロシアでも元気でね」
「ありがとう優ちゃん」
「食べ過ぎるんじゃねーぞ」
「分かってるよ!今日だけだってば!」
心なしかううりもテンションが高い。ねんううはじわりと胸の奥から言い様のない不安が広がる
「早くヴィクトルに会いたいな」
「びくとる…」
ううりの大好きな人。ううりの一番。ううりをいっぱい触るのを許されてる人。
「ねんううカツ丼だよ?食べないの?」
「びくとるのところにいくの?」
「そうだよ。ねんううも絶対気にいるよ!っていうかもうヴィクトルが気に入ってるんだけど。早く会いたいって」
「……!ぼくもいっていいの!?」
「うん。…嫌だったら残っても」
「いく!」
ねんううはううりの太ももをよじ登り、ううりがひょいと摘むと机の上にそっと置き切り分けたカツ丼を小皿に盛ってくれた。あーんはしてくれないが良しとしよう
はぐはぐとカツ丼を頬張るねんううを見るううりの目は優しかった。愛されてると感じる瞬間だ。
ううりは一瞬指先が動いたが引っ込めてしまった。撫でてくれると思ったのに。
ううりはねんううが触られるのを嫌がる神経質なねんどろだということを知ってるのだ。
そして自分だけがそれを望まれてることは知らない。