「いもむし?」
「そう」
正確には芋虫ではないかもしれない、けれど、芋虫かなんてことは些細なことだ。
公園のベンチに腰掛け鳩にパンくずをまく老人を見つめ彼女はまるでいもむしという言葉を初めて聞いたもののように呟いた。僕は返事をしてひとつうにょりと蠢いた。
「人間じゃないのね」
「人間じゃないね」
おかしなことだ。今ここを通る誰もが彼女は失恋したばかりで放心している、もしくは会社をクビになって虚しさを感じているように見えるだろう。
やらやれ、タバコを吸いたいが、さて、ぼくは指のないいもむしだった。