SS ライバボ 1/2
ふっわ〜とした雰囲気だけの話でバーボンがモブおじにハ二トラしてる風



けばけばしいネオンのサインボードで飾られた外観とは異なり、店の中はシックで落ち着いた雰囲気だった。
街で一番の老舗のバーと言うのは嘘ではないらしい。
フロアより一段高くグランドピアノがあるだけの簡素なステージで、長い髪を束ねた男が椅子にかけてアコーディオンを奏でていた。
誰もが知るタンゴの名曲が薄暗い店内に流れる。
「ここは俺の店なんだ」
バーボンがカウンター席に着くとすぐに、無遠慮に隣に座った男は機嫌よくそう言った。上背はないが筋肉質でがっしりした四十絡みの男は自己紹介をして、この街で自分が如何に顔が効くかを語った。
視線は店に入った時から感じていたが、今回のターゲットは男もイケるという情報は確かなようだ。
好みは滑らかな肌のベビーフェイスで、ブロンドだったら申し分ないらしい。
「素敵なお店ですね」
日本から来た観光客のトール。大学で写真を勉強していて、撮影をしながら西海岸を特にあてもなく旅している。
それが今のバーボンの設定だ。
男はバーボンに酒を奢り、いい撮影ポイントを案内すると申し出た。
「明日、国立公園の方まで連れてってやるよ」
はにかみながら礼を言うと、男はカウンターの上のバーボンの手に自分の手を重ねた。
バーボンはちらりとステージの方を見た。
そこにはライがいる。
白のシャツと黒のスラックス姿でタイはしていない。
無表情なまま長い指を美しく走らせて、哀愁と官能の曲を紡ぐ。
クールで緻密な演奏が、少しだけライフルで獲物を狙う時の彼の姿と重なった。
昨夜、バーボンはライと寝た。犯されたと言った方がいいのかもしれない。
組織の命令でわざわざ日本から合流してやったのに、挨拶がわりがセックスだと。
呆れたところで、結局はいつものように抱かれた。
最中、お互い言葉を交わすことはない。ただ、舌を、足を、体全てを絡めあう。
まるでタンゴダンスみたいに…いや、そんないいもんじゃない。
そこにはなんの感情もないし、あってはいけない。