※そしかい前日話
子供の頃に母国で見たウェストミンスター寺院のようなきらびやかさや荘厳さはないが信者たちによって丹念に手入れがされていると分かる教会に赤井はいた。人っ子一人いないこの小さな教会は静まり返っていた。
「全くあなたにこんな場所は似つかわしくありませんね。」
静寂を切り裂くように声がする。ゆっくりと後ろを振り返り、声の主に対峙する。片方の口の端をあげ笑う彼の顔は今日はバーボン、安室透、降谷零 果たしてどの顔なのだろうか。
「…確かにそうは思うさ。だが、俺も一応洗礼は受けてはいるからな。」
「験担ぎにでもきたと?」
くだらないとでもいいたげな口調で彼は言葉を紡ぐ。
「それもあるが君に言わなければならないことがあってな。」
「一体何の話でしょうか。明日の作戦の最後の打ち合わせというわけですか。」
「俺達は明日組織に最後の戦いを挑むわけだ。これはお互い命を落とす可能性がある。」
明日いよいよ長年の因縁を絶ち切るべく、公安、FBI、その他諸外国の捜査局が一丸となり大掛かりな作戦を実行する。さしずめ最期の聖戦といったところだ。
決して一筋縄ではいくわけもなく大きな犠牲を払うことにはなるだろう。
「まあ、そうなる可能性はありますね。」
少なくとも自分はそのつもりはありませんけどねと彼は言葉を続ける。
「だから、君に言っておこうと思う。俺は君を愛していると。」
さっきまで饒舌に話していた彼は目を見開きその唇から言葉を紡ぐことは出来なかった。まるで時が止まったかのようだ。
「返事は明日の作戦の後にでも聞かせてくれ。」
そう言いながら赤井は立ち尽くす彼の横を通って出口へと向かう。
「…っ赤井!」
なんだと言いながら赤井は振り返った。彼はこちらを向かず真っ直ぐ祭壇の方を見つめていた。その背はしっかり伸びていた。
「…死んだら許さないからな。」
かすかに聞こえたその言葉は赤井を大いに満足させた。
「了解。」
神に誓おう。そう言いながら赤井は扉を開け去っていった。
「ずるいやつだ…。」
一人残された彼の顔の頬に一筋の涙が零れていたのは神のみぞ知る。