黒いパンストだと男のソックスでもそのようなナイロンの物が有ったので、不審に感じる者は居ません。
しかし、膨らませた胸だけは気付かれないように気を使いました。

それでも嗅覚の鋭い男は居るものです。その男は私に唐突に声を掛けて来ました。
「なぁ、高木君。ちょっと話が有るんだけどいいかな?」
何かと思い了解したのですが、私より二歳年上の先輩でした。
二人であまり客の居ない喫茶店に入り、用件を聞いたのです。
「話し難いんだけど・・・君、パンストを穿いていないか?
 いや、個人の趣味に口を出すつもりはない。ただ、君も男が好きなんじゃないかと思って・・・」
威嚇するのではなく、遠慮がちに話す先輩に好感を得たのです。
それでもカミングアウトするには、まだ早すぎます。
「そんな事は有りません。僕は男ですから」
私の言葉に力強さが無かったのに確信めいた物を感じたのでしょう。
彼が先にカミングアウトしたのでした。
「言い難いが、僕は男が好きだ。だけど完全な男は嫌だ。女のような男に惹かれるんだよ。
 君のその下に穿いてるのがストッキングなら同じ趣味かもしれないと期待したんだけど・・・・・・」
現在で言うニューハーフ趣味の男なのです。
此処まで言われると私も素直な気持ちになりました。
「・・・・・・そうだったんですか。正直に言うと僕もそうです。
 先輩の言う通り、この下にパンストを穿いています。
 女の人とセックスしたいと思いませんが、男の人とは興味があります。
 僕・・・いや私、心は女なんです。そう聞くと興味が無くなりましたか?」
「いや。僕の趣味にぴったりです。付き合ってもらえないでしょうか?」
外観も私の好みのこの男を断る理由がありません。
「私でよろしかったら・・・でも、貴方と会うときは女の格好でもいいですか?」
「喜んで。心臓がドキドキしています」
                   
こうして交際が始まったのですが、
身体の関係になるまでには、それから半年くらい時間が掛かったのです。
男として育てられて来たので、男を抱くにしても抱かれるにしても覚悟が必要でした。
初めて関係を結んだのは私の部屋でした。大学の帰りに、誘ったのは私の方からです。
何度も会い、愛情を抱いてしまった私は覚悟を決めていました。