国立公園は麻薬・暴力団の隠れ蓑。
上野から盛岡まで三時間。支線待ち一時間。バス待ち二時間。三時間の空費。上野盛岡三時間。なんじゃいな。
東北の方は親切で気さくで実に温泉ならではのこと。地方のお話を聞くことが楽しいからいく。温情が一生残る。
十和田八幡平観光温泉旅館、後生掛温泉は自炊部事務所に入った最初から腹の立つことばかりであった。最高に薄汚い建物だ。(  )長距離電話に話したことがない。
ここの電灯は入り口に小さい輪がひとつ。消灯して中が全部真っ暗闇。
男女雑魚寝でこれで旅館法・風俗営業ならたちまち罰せられて、万時手探りで夜二時間静かに日記を書こうと予定したけれど、こんなことでいつまでも過ごせるはずはない。
翌日、小柄な若い男が来て嫌がらせが出る。午後また来た。 (神?)の暴力団、とってもすごく、個室に行くことの強制である。一室五千円の個室になんて入るはずはない。炊事道具共一万二千円以上になる。
間に合わせの夕食をガスにかけて椅子に腰掛けていると、若い、細〜い、背の高〜〜い、麻薬犯のようなやせた男が飯を食べてます。
いただきません!もらいません!お断りします! 軟派の暴力団と見ゆ。
かなり過ぎて、左方の方から醤油で濃く煮た平たい直径2.5センチほどのものを20くらい小皿に並べたものをガスの火種においた。 顔は見ない。少しも手を付けず、言わず語らずもどる。
夜半、暗がりで横になって寝ている顔の前に、ずんぐり女が来て、さっきの皿など持ってきて置いていった。はじめは毒を入れない、不気味にし〜んとしている。試しにちょっとそっと口に入れて思わず噛みかけた。
ものすごくとっても苦い。吐き出し、口の中を拭く。 口を洗いたくてもすぐ追っ手が来ると思うと起きられない。苦さが口に残らない。異常な緊張をしつつ、皿の毒物を始末した。
誰にもお世話様にならず、なこと、後を振り向かないこと。 吹きっさらしのバス停は風が水平に吹く。雨具は蝙蝠傘一本で、風がまた強くなる。 大雨になりそうだが、すぐずぶ濡れになっても暖まりには絶対に戻らない。
心の中で早く遠ざかること、これの言い続けであった。鵺鳥だけが怖いのではない。一生付きまとって、凄んだあの脅しが怖い。付きまとっている。
もう来ることは絶対にないのだ。山、山、山。この温泉よりほかに家もない、人もいない。どこに埋められようと知れることではない。
山、山、山のほかに何もない。山、山ばかりである。
熊の山。