「それにしても、あれ以来、俺はとてもセンシュアルな人間になった。セクシュアじゃ無く、センシティブでも無く、センシュアル。わかる?今までバカにしていたセンチメンタルなものも、今では少しは理解できるようになった。人生が広がった。しかし切ない」
 あの「彼」が自分はセンシュアルな人間だと言うのなら納得もするが、MASARUがセンシュアルとは、と私は吹き出しそうになったが、これも黙っていた。

 本を読んでいても音楽を聴いていても、子供を連れて動物園に行っても、MASARUは「彼」の手を、「彼」の尻を感じることができるのだそうだ。「彼」はこの世界に遍在しているのだそうだ。
「ふーん、多神教の神みたいなものなのね」と言うと「いや違うな。神様だとか鬼だとかのあっち側では無くて、あくまでこっち側なんだ」とMASARUは言う。

 神話、民話にも、幼い頃に聞いた故郷の昔話にも「彼」は出てくるんだ。
 ・・・・・・たとえば・・・と、MASARUは語り始めた。