血を吸わせろ、でも、トマトジュースごちそうして、でもなくカミーラが少し付き合ってちょうだい、と誘ってきた。
その真剣なまなざしに同意すると、彼女はこちらを引き連れて広場の一角で昔話を始めた。

カミーラがお姉様と呼ぶ吸血鬼は、千数百年前に、当時のワルキューレの騎士と恋仲だった。
もしかしたら今のあたしのようにワルキューレのひとりだったのかもしれない、とカミーラは補足説明した。
その彼女は当時のワルキューレの騎士を愛し、その愛ゆえに彼との恋路をあきらめ、彼が人の娘と結ばれて血統を残すように願ったという。
ワルキューレの騎士の次の転生でこそ、戦いを忘れて辺境の館で寄り添い、愛し合う静かな暮らしを望んでいたという。

だが運命は非情にも代々の転生したワルキューレの騎士に戦いを迫り続けた。
数百年間、ワルキューレの騎士に寄り添い続け、彼を助けて、支えてきた彼女は、
カミーラを同格の吸血鬼に転化させると、その百年後に、自ら消滅して灰になったという。

「貴方は知らないわ。忘れ去られるというのが、どれほど、残酷な仕打ちかを」
ワルキューレの騎士には代々の騎士の戦闘経験や能力、そして記憶が継承されているのだという。
覚醒の段階が深まれば、理論上、あらゆる能力と記憶を引き出す事も可能ではあるらしい。
お姉様とカミーラが呼ぶ彼女は、初めの頃、騎士の覚醒を促す事で自分との思い出や愛し合っていた前世の記憶を呼び覚まして、ワルキューレの騎士と連れ添う事を楽しんでいた。
だが、代を重ね、転生を重ねる事で、呼び覚まされる記憶も能力も薄れていき――
彼女は自分が過去の亡霊であり、ワルキューレの騎士にとっては、身勝手な愛情を投げかける迷惑な押しかけ女房気取りの女だと悟ってしまったのだという。

「あたし、貴方を気に入っているわ。もしかしたら愛しているのかもしれない
 でも、お姉様みたいな愚かしい真似は決してしない、疲れたらまた千年でも二千年でも眠って……転生した新しい貴方を捜して……見つけて……意地悪して、からかう事にするの。」
そう言ったカミーラは笑っていた。
だから吸血鬼になんかしてあげない。生きている貴方に、血を吸わせて、と、ねだるのが楽しいんだもの、と言ってウインクしてきた。
だとしたら、そう簡単には血を吸わせるわけにはいかないな、と答えるとカミーラは少しだけ恥ずかしそうに近寄ってきて、抱擁をせがんでくる。
そして、こちらの首筋に甘噛みをしてから、無防備すぎるわよ騎士様、と、強く抱きしめてくるのだった。