「それはこっちの、セリフ」
「オレはいいの、ただの発散だから」
「俺だって発散だっての」
「オレで発散すりゃいいじゃん」
「……アベ君、無茶苦茶言ってんの分かってる?」
分かってない、と拗ねたような声をしていたのは気のせいだろうか。
じゃあする? と聞いてみる。
他の女と間接キスしたお前なんて、と彼が目を細める。
マニキュアの持ち主の方とは直接関わったのに、そっちはどうでもいいらし
い。変な思考。分かる気はするけれど。だって、時々、それはほんの時々だけ
ど、直接キスするよりアベ君の飲み残しのビールに口をつけたときの方がはる
かにときめく、そんなときが俺にだってある。
黒いシャツのボタンをはずして、白い肌に指を走らせる。
右胸、乳首のわずかずれた下に気胸の手術痕はある。それは微かに盛り上が
っていてつるりとした手触りをしている。
そちらを撫でている振りをして、指の腹をすべらせたかのようにして突起を
刺激する。
「あ……っ、」
こぼれた声が甘くて、俺の頬は持ち上がる。にやけてしまうのは、どうやっ
たって女達にはアベ君のこんな声を出させられないと知っているからだ。
ああ。
俺も嫉妬してるんだ。
自分のことは棚に上げて、彼が女を抱いたということに。
男と女では身体が違う、そもそも受け入れるものとぶちこむものなのだから、
磁石の同じ極同士が引きつけ合って求め合いくっつくなんてこと自体がおかし
な話だ。