上半身裸で路上にへたり込む長髪の“男性”。
ビリビリに破れたシャツで、顔に滴る鮮血を拭う。
しかし、彼女を取り巻く複数の若い男たちは、容赦なく、殴る蹴るの暴行を加える――。

これは、ブラジル北東部に位置するセアラー州フォルタレザで撮影された暴行動画の冒頭だ。
被害者は、ダンダーラ・ドス・サントスさん(42歳)。
身体的には男性だが、心は女性というトランスジェンダーだ。

この日、自宅にいたところを彼らに外へ連れ出され、殴る蹴るの激しい暴行を受けていたという。
撮影者と思われる男が嘲笑混じりに「オカマを殺すぞ!」と口にすると、彼女は命乞いの言葉を口にするが、その表情はどこか自身の運命を悟ったようでもある。
その後、激しい暴行を受け、ぐったりとした彼女は手押しの一輪車に載せられると、まともに抵抗することもなく、どこかへ連れ去られていくのだった。

動画はここで終わっているが、この日、彼女は射殺体で発見された。

目撃者がブラジルのテレビ局「グローボ」に語ったところによると、男たちはダンダーラを棒で殴ったり石を投げつけたりと、凄惨極まりないリンチだったという。
見かねた目撃者は警察に2度通報したというが、彼女の息があるうちに警察が来ることはなかった。
グローボの取材に対し、警察側は「通報が真実かどうか確認できなかったため」と、あきれた弁明をしている。

一方で、警察はダンダーラ殺害に関わった6人を特定し、すでに5人を逮捕した。
現地報道によれば、うち少なくとも3人は10代であるという。

2011年には同性婚を合法化し、リオやサンパウロでは世界大規模の同性愛者たちの祭典「ゲイプライド」が催されているブラジルだが、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)に対するヘイトクライムは続発している。
殺されたダンダーラの母親によれば、彼女は過去にも暴行を受け、負傷したことがあったという。

ブラジル国内の同性愛者団体「ゲイ・グループ・バイーア」によると、16年にはブラジル全土で25時間に1人の性的マイノリティーが殺害されたという。
また、被害者全体の42パーセントに当たる144人がトランスジェンダーだという。
15年9月からの1年間の統計では、世界で295人のトランスジェンダーが殺害されているが、うち約4割に当たる123人はブラジル国内の被害者だった。

人種差別は少ないといわれるブラジルで、これほどまでにLGBTへのヘイトクライムが続発する理由について、リオ郊外在住でレズビアンのプリシラ・サントスさん(31歳)は、こう話す。

「現職のルセフ前大統領が罷免されるなど政治不信が続く中、LGBTに否定的なキリスト教福音派が政治の世界でも存在感を増しつつある。
彼らは票集めのため、ファベーラ(貧民街)などで『聖書は神によって書かれた』と説き、洗脳めいたこともやっている。
結果、教育レベルの低い若者たちの間で、ホモフォビア(同性愛嫌悪)が高まっている」

ターゲットとされるLGBTの人々はもちろんのこと、政治家たちの票田として洗脳される若者たちも、ある意味、被害者といえるのかもしれない。

以下ソース
http://www.cyzo.com/2017/03/post_31906_entry.html

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