会社を辞めた翌日から一切、仕事はしませんでした。そのころ出入りしていた発明協会で、仕事をしながら「段ボールカッター」を発明した方が「６年かかった」と言うのを耳にして、「俺にはもう時間がない。そんな年数はかけられない」と退路を断ったのです。
朝６時に起き深夜２時に寝るまで、孤独な作業に盆も正月もなく明け暮れました。何の結果も出さず、社会の何の役にも立っていない人間に、休む資格などありません。
まずは世に出回っているホール型やカップ型の自慰グッズのうち、１５００−２０００円の価格帯を片っ端から買い集めました。１種類につき２個ずつ。自分が実際に使う用と、内部構造が分かるよう切り開き紙に貼り付ける標本用です。
問題点のリストはすぐいっぱいになりました。においがひどい。油が出てべたつく。会社名や問い合わせ先の記載がない。使うだけだと分からないが、切り開くとパッケージに示された構造と違っている−。そして市場研究は、８０種ほどの商品を試し、３カ月もかからずに終わりました。毎月のように出てくる新商品の多くは、パッケージだけ変わって中身がほぼ同じだったのです。これでは口コミの広がりも期待できず、短命に終わるのも当然です。
目指すべき方向性が見えてきました。これまでこの業界には存在しなかった「定番商品」。その開発にはリストアップした５０項目の問題点をすべてつぶせばいい。必要なのは日本のものづくりの水準に達した品質です。
並行して進めていた研究が、快感のキモとなるカップ内部の素材選び。弾力があって自由に形がつくれる素材を探し求め、釣具店で柔らかいルアーを大量購入したこともありました。研究室となった実家の自室で電子レンジにかけると、どうやってもひどいにおいが出て、「こりゃダメだ」とあきらめました。
どれだけ時間や労力を費やしても、前に進めなかった日は不安を抱えて布団をかぶるしかない。もがき続ける中で大きな一歩を得た場所は、治療で行った歯医者さんでした。
以下ソース
http://www.zakzak.co.jp/lif/news/181115/lif1811150005-n1.html
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