中には、美しくなった自分を見て泣いて喜ぶ女性もいるという。改めてフロアを見渡すと、麗しい髪形に整えてもらったお客さんが、美容師とファッションやメイクの相談をしている。

 長谷川さんによれば、白髪染めの際に黒く染めるのではなく、白髪交じりのグレイヘアだからこそできる、ブロンドや淡い紫、ピンクなどのカラーを楽しむことで、白いシャツなど明るい色の服を好み、メイクも変えたくなる人が多いという。

「それまでは、『若い人が着る色でしょ』と敬遠されていたのが、カラーを楽しむことで淡い色や白いシャツが似合いやすくなって、すごく楽しくなったというお声をよくいただきます」

《おしゃれの基本はまず自分の気持ちが高まること》と『70歳のたしなみ』にあるように、一歩踏み出して美容室に行けば、気持ちが高まり、おしゃれの幅が広がる。そして街に出かけたくなり、友達に会いたくなる。

 何より、上機嫌になる。その結果、前述の長谷川さんの話のように、恋愛を楽しみ、習い事や趣味など行動範囲も広がっていくのだろう。

《もう歳だから今さら何をあがいてもむだよ、とあきらめたらおしまいである》と、坂東さんは説いているが、この美容室にいる幸せそうな女性たちを見て、納得した。

終わり