海外ではベンゾジアゼピン系睡眠導入剤が認知症リスクを高めるという指摘もある。高齢者を対象に服用者と、非服用者にわけて追跡調査した結果、認知症のかかりやすさに有意な差があったとする研究が存在するのだが、今野医師は「明確な答えは出ていない」と話す。

「ただ、高齢者がデパスを飲むことによって、せん妄を発症する可能性が高まることは事実です。処方は慎重に行う必要があります」

北里大学医学部精神科の宮岡等主任教授は、先の薬事・食品衛生審議会で次のように発言している。

「この薬剤に関する危険性の認識には、医者ごとに温度差がある。(中略)高齢者の方に寝る前に安易にデパスが出ているというようなことがよくある」

薬剤師である私も医師のモラルに大きな差があることを痛感している。向精神薬となったデパスには30日の処方制限がついた。一例であるが、それまで一日1回、一回につき1錠服用していた患者ならば「30日で30錠」の処方となる。

ところが処方制限の実施以降、患者の求めに応じて「一日3回、一回2錠」などと多く処方する医師が散見されるのだ。これでは処方制限の意味がない。

患者、薬、医師の歪んだトライアングルが睡眠導入剤依存の被害者を生み出しているのである。

終わり