手洗いの励行は、部隊生活の日常にも及ぶ。

「トイレや洗面所に『手洗いの仕方』を解説する貼り紙を出しているところもあります。それも、小便器の前だけでなく、個室に座ったときの正面にも張られていたりする。用を足すときに必ず目に入るよう指示の徹底化を図ります」(前出・自衛隊OB)

 手洗いにも自衛隊ならではのポイントがある。

「石鹸をつけ両手の平をゴシゴシ前後にこする人が多いですが、そうすると親指と爪の洗浄が疎かになりがちです。そのため、『親指だけを洗う』『爪の先は別に洗う』『その後、爪の根元を洗う』など、手順を具体的に指示しています」(佐藤氏)

 そうした指示は足元にも及ぶ。感染症対応の現場で、隊員自身がウイルスを運ぶような事態を避けるため、例えば、鳥インフルエンザや豚コレラなど家畜に感染症が発生した場合は、現地での活動後、ブーツに付いた土を必ず現場で落とし、靴底の消毒を徹底している。

 佐藤氏が続ける。

「海外任務では事前に予防注射を何本も打ちますが、それでも感染症の恐れは消えない。そのことを隊員にきっちり伝え、手洗いの励行を指示しました。イラクでは駐屯地の食堂入り口に手洗い場を設け、食事前に手洗いをする動線を作りました」

 手洗いに水が使えない屋外での食事の場合は「ウェットティッシュを用いて手指の消毒を行なう」という。

 これらの「自衛隊式」予防法は誰もが日常生活で実践できる対策ばかりだが、それを集団単位で確実に実施できることが自衛隊の強みだ。佐藤氏はこう言う。

「自衛隊は以前から感染症に緊張感を持って対処しています。『自衛隊における感染症対策に関する訓令』や『感染症対策に関する達』により、自衛隊内の各組織での対応や感染症の種類ごとに発生時の報告を義務付けています。隊員には部隊ごとに発行する『衛生ニュース』で、流行中の感染症とその予防法を伝えています」

 そうした取り組みが効果を発揮できるのは、自衛隊という組織ならではの特性による。

「『上意下達』が徹底しているため、組織全体に情報が浸透しやすい。他の役所や民間と大きく違うところです」(同前)

 具体的には、部隊での朝礼・終礼での予防励行の伝達、営舎での10人弱の班単位での指示など、多くの段階で感染症予防の徹底が伝えられる。

 近年、自衛隊ならではの危機管理テクニックを取り上げた『自衛隊防災BOOK』がヒットした。そこでは日頃の防災や減災に役立つ知識や技術が数多く披露されている。ある現役隊員が語る。

「我々の強みは『健康管理も仕事の一部』と全員が認識していることです」

 意識の徹底こそがコロナ予防につながっている。