植松死刑囚もまた、前述の近藤氏同様、大麻は自然からの贈り物でありいわゆる「薬物」とは別物だと捉えていたようだ。逮捕された伊勢谷を擁護する声には、こうした主張の他に、彼が逮捕されたからこそ、主張が正しかったのではないか、とする見方も広がっている。記者が続ける。

「伊勢谷のSNSなどには、大麻は悪くないのだと主張するユーザーの書き込みも見られました。そもそも『犯罪をしている』という自覚がなく、もっと言えば、権力者が大麻を『犯罪にしている』のだから、自分達は悪くないという開き直り。植松死刑囚も、自身の犯行を正当化しましたが全く同じ理屈です」(全国紙記者)

 他にも複数の「大麻擁護論者」に話を聞いたが、伊勢谷を非難する人間はほとんどいなかった。日本では禁止されているので、そんなにやりたいのなら海外に行けば良い、という声は若干だが聞かれた。また、日本が大麻の所持や売買を違法化しているから犯罪組織の資金源になる、といった声もあったが、それは違う。一部の州などで嗜好用大麻の売買が違法ではなくなったアメリカでも、結局、反社会的組織がいまだに大麻の売買に関与し、問題となっている。海外では合法という言葉が擁護論者からはたびたび聞こえてくるが、現在、大麻が合法化されているのは世界でわずか3か国(ウルグアイ、アメリカの一部の州、カナダ)。しかも、その合法化は日本も含めたほとんどの国連加盟国が加わる国際条約「麻薬に関する単一条約」で禁じられているため、国連から厳しく非難された。ちなみに、オランダは合法なのではなく非犯罪化であり、大麻所持や販売について厳しく管理することで他の禁止薬物の乱用を押さえ込んでいる。擁護論者が訴えるように、大麻は世界で「合法」にはなっていない。

 違法行為であることを認識しながら、それを実行することは、法治国家において取り締まりの対象となる。大麻の有用性を唱えたい、主張したいのであれば、現行法を厳守しながら法律を変えていく運動をすれば良い。違法行為を違法だとわかっていて行う人間がいくら大麻の有用性を主張したところで、誰が信用しようというのか。さらに──。

「今年初めから伊勢谷の行動確認を行なっていた当局ですが、捜査の中で伊勢谷に近い関係者の存在が浮かび上がり、逮捕はこちらが先ではないか、という見方もあった。この人物は大麻以外の薬物の疑惑もあるのですが、使用者が違法なものを確実に所持しているタイミングを慎重に測る必要があります。常習度が高く、より自信を持って逮捕に持ち込める伊勢谷が先になった」(全国紙記者)

 別の薬物ではなく「大麻だから逮捕された」という口実がなくなれば、伊勢谷を擁護する声のトーンも下がる。当局は、大麻だろうが覚せい剤だろうがコカインだろうが、所持や売買、使用などの違法行為が行われていればただ検挙するのみなのである。

 簡単に自身の意見を表明できるネット上では、自己都合による解釈に重きを置き、知りたいことしか知ろうとしないという人たちが一定数いる。そのため世界で例外的な大麻の合法化が標準であるかのように語り始めるなど思考が偏重し、一般的に悪いことでさえも屁理屈をこねて正当化しようとする動きが目立つ。このような人々は、やたらと声が大きいのも特徴で、一部分だけを切り取れば、この声こそがマジョリティなのではないかと錯覚するほどである。特に大麻による事件が起きるたびに妄信的な人々が騒ぎ出すのは、ネットでの情報収集の難しさを象徴しているようにしか見えない。