【話題】「お前はケンダマンの気持ち考えたことあるのか!」 完璧超人を巡る老婆とチャーハンのナゾ問答[08/20]
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―[おっさんは二度死ぬ]―
友人が常連として通う居酒屋がかなり厳しいらしい。
もちろんこのご時世、経営が厳しいということもあるのだけど、それ以上に厳しいのが店のルールだ。どうやら店長がかなり厳しい人のようで、簡単なことで「出入り禁止」いわゆる「出禁」になるらしいのだ。
最初のころは、それこそ酒に酔って暴れるだとか、店のものを壊すとか、他の女性客にナンパまがいのことをするだとか、そういった迷惑行為を受けて真っ当に出禁処分をしていたらしいのだけど、最近はそれが先鋭化しすぎて訳の分からない理由で出禁になるようなのだ。
トイレに行ったときにテーブルに置いたままのスマホが狂ったようにアラーム音を鳴らしたので、うるさいので出禁という理不尽な出禁を皮切りに、最終的には最初のオーダーが脂っこいものだったので不健康なので出禁、という訳の分からない状態に陥ったそうだ。赤い服を着てきたから出禁、を言い渡された常連が出た瞬間に、これはただ事じゃないとなったらしい。
そんな店、出禁になってもいいじゃん、と思うのだけど、そういうわけにもいかないらしく、友人はそれでもその店に通いたいようなのだ。
それにしても、その話が本当ならばなかなか理不尽な出禁理由だ。ある程度は独自のルールが必要で、運営上は仕方がないとはいえ、あまりに度が過ぎるのも困ったものだ。
理不尽な出禁といえばどうしても思い出すことがある。
小学校の頃、僕は校区のギリギリに住んでいたので、路地を1本奥に入ると、違う小学校の校区が広がっていた。小学生にとって校区とは絶対的なテリトリーであり、違う校区はまさしく別世界、あまり足を踏み入れることはなかった。
ただ、学年があがってくると次第にその別世界を楽しむようになってくる。そこには別世界の路地があって、別世界の公園があって、顔も見たことがない別世界の小学生が遊んでいるのだ。ただ校区が違うというだけで、そこには何ら変わらない小学生の日常が隣り合わせに存在している。それはなんだか奇妙で面白かった。
そこで、二人の小学生と仲良くなった。同じ学年だ。ひとりはどこか良いところのお坊ちゃんらしく、パリッとしたシャツを着ていた。もう一人は小太りな感じで皆から「チャーハン」という名前で呼ばれていた。
「バアさんの店に行こうぜ!」
パリシャツの提案により、バアさんの店と呼ばれる駄菓子屋に行くことになった。どうやらこちら側の校区にも僕らの校区と同じように子供たちがお小遣いを握りしめて集まる駄菓子屋があるようだった。みんな猛烈な勢いで路地を駆け抜け、そのバアさんの店に向かった。
そこは普通の民家の庭先に置かれたプレハブみたいな場所で、本当に「バアさんの店」という看板が入口の近くに置かれていた。バアさんが店番しているからバアさんの店だって子供たちが勝手にそう呼んでいるのではなく、本当にバアさんの店だったのだ。
ただ、店番している女性は、バアさんと呼ぶにはいささか若く、今にして思えば40歳くらいの女性だったように思う。
「今日はガムラツイストいくぜ」
「俺はジュエルキャンディー」
みたいな会話を交わしながら意気揚々と店内へと入っていく皆を尻目に、チャーハンが店に入ろうとしなかった。一番に入店してコスパの良さそうなお菓子を買い漁りそうなのに、チャーハンは門のところでジッと動かないでいた。
「どうしたの? 入ろうよ」
そう声をかけると、チャーハンは首を横に振った。
「俺は入れないんだ」
どうやらバアさんから「入店を禁止する」と言い渡されたようなのだ。当時は「出禁」なんて言葉が僕らの文化にはなかったけど、いま考えるとしっかり「出禁」だったのだと思う。
続く
以下ソース
https://nikkan-spa.jp/1774669
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http://mercury.bbspink.com/avplus/ 詳しい経緯はこうだ。当時、クジを引いて出た番号に応じてキン肉マン消しゴム、いわゆるキン消しがもらえるクジがあった。壁に数多くのキン消しがぶら下げられており、番号が振られている。チャーハンはそのキン消しクジにご執心でどうしてもアシュラマンのキン消しが欲しかったようなのだ。
ある日、チャーハンはただならぬ気配みたいなものを感じ取った。なんだか今日はアシュラマンを当てられる気がする。そんな予感がした。絶対に今日は当てる、そう決意してお小遣いを投入し、キン消しクジを引いた。
引き当てたのはケンダマンだった。けん玉をモチーフにし頭部が鉄球になった完璧超人だ。ただ、ハズレ扱いのキン消しだったので、狙っていたアシュラマンより3サイズくらい小さいものだった。
失意のあまりチャーハンが呟いた。
「ちぇ、ケンダマンか」
それを聞いたバアさんは怒り狂った。お前はケンダマンの気持ちを考えたことがあるか。自分を当ててくれた子供が「ちぇ」なんてふてくされた態度をとる、それをみたケンダマンの気持ちがなぜわからないのか。人とは思いやりの生き物である。そんな思いやりのない子供はうちの店に入店させない。
かくして、チャーハンは「ケンダマンの気持ちを考えなかった」という理由でバアさんの店を出禁になったのである。なかなか理不尽が極まっている。
「俺に思いやりがなかったからさ。ケンダマンに対してさ……」
チャーハンはそう言って目に涙を浮かべていた。まるで大罪を犯した囚人のように、反省の表情を見せた。
僕はこんなにも理不尽なことってあるだろうかと憤った。僕の知らなかった隣の学区で、こんなにも理不尽なことが横行しているのかと、なんだか許せない気持ちになったのだ。
遠い国、遠い時代に戦争があった。社会の授業でそれを知った小学生の僕は悲しい気持ちになった。戦争が悲しかったのはもちろんだけど、それを知らなかった自分がなんとも愚かだと思ったからだ。
そして、隣の学区でケンダマンの気持ちを考えなかっただけで出禁になったやつがいる。そんな理不尽なことが横行している。それを知らなかった自分をなんて愚かなんだろうと思った。
「彼はちゃんとケンダマンの気持ちを考えています!」
いてもたってもいられなかった僕は、チャーハンを連れて入店し、バアさんに抗議した。僕もアホだったので、いま考えると抗議の内容もまあまあおかしい。ケンダマンの気持ちを考えることはどちらかというとあまり関係ない。理不尽な対応に抗議するべきだったのだ。
この学区においては、このバアさんに逆らうことは死を意味する。皆の社交場であるバアさんの店に出入りできなくなるからだ。パリシャツも、バアさんに抗議するなんてこいつアホかよ、知らないことって怖いことだ、みたいな顔をしていたが、僕は隣の学区なので、別に出禁になってもよかった。
「もういいよ、おれやっぱりケンダマンの気持ちわかんないし。考えたことないし、ケンダマンどうでもいいし。ぜんぶ俺が悪いんだよ」
チャーハンが後ろから申し訳なさそうに僕を諫める。チャーハンも罪の意識が大きくなりすぎていて言っていることがまあまあおかしい。
「ケンダマンの気持ちを考える人なんて世界には一人もいません! チャーハンはおかしくありません!」
興奮しすぎた僕の主張もまあまあおかしい。
バアさんはさすがこの学区で女王として君臨しているだけあって、威圧感のある鋭く冷たい眼光で僕を睨みつけていた。
「友達のためにそこまでできる思いやりはいいけどねえ、ケンダマンの気持ちを考えられない部分はよくないね。ろくな大人にならないよ」
ババアの反論も微妙におかしい。なんでそこまでケンダマンの気持ちを重視するんだ。もしかしてこの駄菓子屋は、世界で一番、ケンダマンの気持ちが論じられた空間なのかもしれない。
続く 結局、僕も罪人をかばったという理由でしっかりと出禁を言い渡されてしまった。その後、どうせ覚えていないだろうと何度かシレッとバアさんの店に行ってみたけど、バアさんはしっかりと覚えているみたいで「あんたは入店禁止だよ」と咎められた。バアさんの執念は凄まじい。
「それでさ、やっぱ理不尽だと思うわけよ、赤い服を着てきたら出禁っておかしいだろ」
目の前で憤る友人。厳しい居酒屋の話がまだ続いていた。その言葉についつい昔のことを思い出してしまった。
「でもさあ、世の中にはケンダマンの気持ちを考えなかったという理由で出禁になったやつもいるんだぜ。それに比べたらかわいいもんじゃない?」
僕の言葉に友人は首を傾げた。
「そう、ケンダマンの気持ち……。ただ、いま考えるとあまり理不尽じゃないんだよな」
差別的なものはもちろん論外なのだけれども、店を運営するうえである程度のルールを制定し、それに従わない人間の入店を断ることは運営上、経営上、大切なことだ。重要なのはそのルールの必然性を丁寧に説明することなのだろうと思う。
バアさんは、あのような駄菓子屋を営んで、地域の子供を育てているという意識があったのだと思う。たとえお目当てでないケンダマンであっても、そのケンダマンをないがしろにしてはいけない。そんな風に育ってほしくない、そんな気持ちがあったのじゃないだろうか。
少なくともバアさんは生半可な気持ちで出禁を言い渡してはいなかった。
実は、それから何年もして、高校生になったときに、さすがに覚えていないだろうとそのバアさんの店に行ったことがある。相変わらずバアさんの店は健在で、そこには小学生たちが集まっていた。バアさんも、経過した年数ぶんだけしっかりバアさんに近づいていた。
何食わぬ顔で入店すると、しっかりと言われてしまった。
「あんたは入店禁止だよ」
「覚えててくれたんですか?」
「全員じゃないけどね、わたしに反抗した子どもは覚えているよ。ずっとね」
バアさんはしてやったりという表情で笑った。
「そうですか」
それはなんだか悪い気のしない出禁宣告だった。
結局、気持ちを考えることなのだろうと思う。理不尽な居酒屋も、そんな処分を下す理由を丁寧に説明する必要があるかもしれないし、客側も納得がいくまで話し合えばいい。それができないのならば、その店にはもう行かなければいい。
「話を聞くとさ、それはやはり店側と客側が気持ちが離れているよね。ケンダマンってさ、けん玉をモチーフにした超人だから、顔にあたる鉄球と左手が鎖で繋がっているんよ。話を聞いていると、その居酒屋ではその鎖が引きちぎれている状態だね。顔と胴体が離れてしまっている」
自分的にはめちゃくちゃ綺麗に決まったと思ったのだけど、友人は「なぜケンダマン?」という表情をしていた。
「ケンダマンの気持ち、いまやっとわかった気がするなあ」
ニヤニヤ笑う僕に、友人は本当に困惑した表情を見せていた。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています