【男性】小学生男子の性を目覚めさせた「縦笛」 中年になっても色褪せないその思い出[06/10]
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―[おっさんは二度死ぬ]―
空港のラウンジでコーヒーを飲んでいたところ、こんな話が聞こえてきた。
「遠足がなくなってくれて本当によかった」
女性はすっきりとした笑顔でそう言ってコーヒーカップを口に運んだ。
「よかったんですか? お子さんは残念がっているんじゃ?」
向かい側に座っていた女性が少しだけ身を乗り出して尋ねる。マダムは少し食い気味に首を横に振った。
「うちの子はね、お弁当の時間が嫌だったの」
どうやらマダムの子どもは遠足の時に一緒にお弁当を食べる友達がおらず、一人で食べることを嫌がっていたようだ。
先生などが気を使って一緒に食べようとする措置もあまり好きではなかったようだ。それがコロナ禍で遠足などが中止になり、たとえ実施されたりしても黙食が掲げられ、友達同士で固まらず間隔を開けて食べるようにするなど、友達を誘って食べることがなくなったようなのだ。だから良かったというのだ。
僕はその話を聞きながら自分でも心当たりがある気がした。どうして幼き日の僕はあんなにも一人で弁当を食べることを怖がっていたのか。どうしてあんなにも真剣に悩んでいたのか。それは強迫観念に近いものだったのかもしれない。
いま、一人でご飯を食べるのが怖いなんて悩みはどこにも存在しない。むしろ、昼休みはオフィスのメンバー全員でランチ、みたいな流れになったら勘弁してくれとなる。おっさんの仕事上の武勇伝を聞きながら昼飯を食べたいやつなんていない。昼飯くらい一人で好きに食わせろよと思うほどだ。なのに、幼き日の僕は遠足で一人弁当なんて、この世の不幸を一身に背負った存在と思い込んでいた節があるのだ。
幼少時代の悩みなんて、往々にして今にして思うとどうでもいいことなのだ。もちろん、それは今だからそう思えるのであって、当時の心中としては深刻なものだし、バカにしていいものではない。ただ、やはり、どうしても少しだけバカにしてしまうのだ。
「五十嵐さんの縦笛……」
ふと、そんなことを思い出した。少しクリームがかったコーヒーの色があの日の縦笛の色と重なった。
小学生の頃だった。五十嵐さんの縦笛がなくなるという事件があった。五十嵐さんは清楚な感じの女の子で、いつもフリフリの服を着ているようなお嬢様タイプ、クリクリした瞳が印象的で人気のある子だった。たぶん、彼女のことを好きな男子も多かったと思う。
そんな状況の中で、五十嵐さんの縦笛がなくなった。
小学生にとって、なにかに直接的に口をつけるという行為は非常にナーバスであったし、神聖なものであった。口をつけるしかない楽器であるところの縦笛は性の象徴みたいなところがあった。その性の象徴たる縦笛がなくなったのだ。それも五十嵐さんの性がなくなったのだ。
誰もが、五十嵐さんとの間接キスを狙った大胆な犯行だと確信した。五十嵐さんは泣き、女子どもは結束して気持ち悪いと男子どもを叩いた。男子も男子で、俺が盗んだわけじゃねえよと応戦の構えを見せた。
「とんでもないやつがいるもんだねえ。間接キスしたいなら放課後にこっそり舐めればいいのに盗むなんて」
そんな男女の争いを傍目で見ながら吉岡はそう言った。サラッと大胆なことを言っていることに本人は気づいていない。
「ほんと、とんでもないやつがいるもんだ」
僕はそう言いながら、教室の後ろにあった道具箱に手をかける。これは各個人に配布された厚手の紙製の箱でロッカーの上の棚にすっぽりおさまるようにできている。ここに三角定規だとかコンパスを入れるようになっていた。
「だいたい、間接キスの何が楽しいんだ」
そんなことを言いつつ道具箱を開けたのだ。
縦笛があった。
続く
以下ソース
https://nikkan-spa.jp/1834896
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誰かが自分を縦笛盗みの犯人に仕立てようとしている。それはとても恐ろしいことだと感じたし、気持ち悪いものだとも感じた。そして、これが露見した場合、いくら否定しても犯人に仕立て上げられる、逃げることはできない、そう感じた。
「あれ、いまのって縦笛じゃ?」
横にいた吉岡がそう言った。どうやらあの一瞬で道具箱の中を見てしまったらしい。
「俺じゃない。勝手に入っていたんだ」
その言葉に吉岡は色々なことを察したらしく、静かに頷いた。
「だろうな」
僕のこの先の人生でこんなにも僕のことを信じてくれる奴が現れるだろうか。そう思うほどに吉岡は何も疑いなく僕の言葉を信じた。
「とりえず名前を確認したほうが」
「それは怖い」
縦笛にはそれぞれの名前が彫り込まれていた。ただ、それを確認する気にはなれなかった。状況的に間違いなく五十嵐さんの笛だろうけど、確認するまでは確定ではない。確定にしてはいけないような気がしたのだ。そこに五十嵐さんの名前が彫られているという事実を見届けたくなかった。
「埋めに行くしかないな」
判断の遅さが命取りになる。そう思った僕は即決した。俺が盗んだんじゃない、勝手に入っていたんだと言っても信じてもらえない。きっと親も呼ばれるだろう。それだけは避けたい。もうこれは闇から闇に葬ってしまうしかないのだ。こんな笛は存在しなかったのだ。
「そ、そうなのか?」
吉岡は明らかに戸惑いを見せたが、最終的には理解してくれた。
幸いにして、道具箱の中には版画で使うために家から持ち寄った新聞紙が入っていた。周りを警戒しながら手探りで五十嵐さんの縦笛を新聞紙に包んだ。もう版画なんてどうでもいい。そんな思いで何層にも新聞紙を重ね、縦笛の痕跡を感じない、くしゃくしゃの新聞紙の塊を作り出した。
放課後になり、その塊を埋めに行く。吉岡も手伝いにきてくれた。どこがいいだろうかと検討した結果、山に埋めに行こうということになった。山に埋めれば絶対に発見されることはないだろうという狙いだ。僕らの山に対する信頼は異様に高い。ただ、僕らの住む街は平地に広がる港町で、周囲に山がなかった。山まで行くのには鉄道などを乗り継がねばならず、小学生の力では困難だった。
「山っぽいところに埋めよう」
なぜか、こういうものを埋めるのは山と相場が決まっている。そう信じて疑わなかった僕たちは、どうしても山に埋める必要があった。
「さあ、いこう、縦笛を埋める場所を探しに」
こうして僕たちの旅が始まったのだ。くしゃくしゃになった新聞紙の塊を手に。縦笛を埋めるための旅が。
とはいっても、小学生の機動力なので、ろくに移動することもできず、どこに埋めても見つかりそうで怖くなってしまい、最終的には吉岡の家に行って庭に埋めた。いま思うと吉岡の家はなかなかの金持ちだったらしく、立派な日本庭園があって、子象くらいはありそうな大きさの石の真横に埋めた。結局、最後まで怖くて名前の確認はできなかった。
縦笛を埋めたのはいいものの、それから苦悩の日々がはじまった。もし五十嵐さんの縦笛を探して本格的な捜査が始まったらどうしよう。警察が介入してきたらどうしよう。吉岡家の庭なんてすぐに掘り返されてしまう。そうなれば僕は逮捕されるだろう。それならば吉岡も幇助の罪とかで逮捕されて欲しい。とにかく眠れない日々が続いた。
本来、冒頭でも述べたように子供の頃の悩みなんて大半が笑い飛ばせるものである。こんなことで真剣に悩んでいたなんて子どもだね。大人になった時にそう思える悩みが大半だ。その心理を紐解くと「もう終わったこと」という感覚が大きい。時間が解決してくれるというやつだ。終わったことだから笑い飛ばせたりもする。
けれども、僕はこの五十嵐さん縦笛事件については一向に笑い飛ばすことができない。終わったことと認識できないのだ。そのことを思うと、いまだに僕の心の奥底のいちばん柔らかい部分をギュッと締め付けるのだ。
続く なぜそうなのか。それはたぶん、いちどもあの縦笛に向き合わなかったからだと思う。名前も確認せず、すぐに新聞紙に包んで埋めた。1秒たりとも向き合っていない。だから僕の中で終わっていないのだ。これが、「俺の道具箱に入っていたわー」と名乗り出たりして、疑いの目を向けられようとも、必死に釈明していれば、向き合ったことになる。いつかは「そんなこともあったよな、バカだよな」と笑い飛ばせたかもしれないのだ。
「終わらせなければならない」
突如としてその感情が沸き上がった。あの日の縦笛に向き合わなければならない。そして、もし可能ならば五十嵐さんを探し出し、盗んだわけではないと釈明し、でも埋めて隠したことを謝らなければならない。それをして初めて、何年か後に笑い飛ばせるんじゃないだろうか。
僕はすぐに吉岡に連絡を取った。
「子供の頃にお前の家の庭に縦笛を埋めたじゃん。あれを掘りかえして欲しい」
「そんなことあったっけ?」
吉岡は忘れていた。
「埋めたよ。大きな石があったろ、その横に埋めた。いま実家住まいなんだろ?庭とか工事してないだろ?ちょっと掘りかえしてきてよ」
「やだよめんどくさい。雨が降ってるし」
吉岡は渋った。
「俺たちは決着をつけなければならない。終わらせなければならない。これは俺たちが始めた物語だ!」
僕の必死の説得の甲斐があって、吉岡はスコップをもって庭へと向かった。会話の音声に雨音が混じる。
「石のどっち側だよ」
「松の木があったろ、小さな松の木。その松の木と石を結んだライン上のちょうど1/3の地点に埋めた」
忘れることなんてない。
「うわー、砂利だらけで掘りにくいなー」
吉岡の声と共にザックザックとリズムの良い音が聞こえる。
「あ、なんかある。縦笛だ!」
「そう!それだ!それ、掘り起こしてくれ!」
電話口の僕もヒートアップする。
「なんでこんなところに縦笛が。あ、名前が書いてある。ちょっとまてよ、擦れているし土がついていて読みにくいわ」
そこには五十嵐さんの名前が彫られているはずだ。またギュッと心の奥底が痛んだ。
「えーっと、名前は……吉岡たもつ、ちょ、これ俺の縦笛じゃねえか!」
そこに五十嵐さんの縦笛はなかった。あったのは吉岡の縦笛だった。
「なんでうちの庭に俺の縦笛が埋まっているんだよ」
「それはこっちが聞きてえよ、それは五十嵐さんの縦笛だったはずだ。二人で埋めたろ」
その言葉を受けて吉岡の記憶が蘇ったようだった。饒舌に説明を始める。
「あー、五十嵐さんの縦笛がなくなって、そのときにコイツ、道具箱に縦笛が入っていたら死ぬほど焦るんじゃねえ?って思って俺の縦笛を入れたんだった。案の定、焦ったまではいいけど、名前も確認せずに埋めるっていいだすから言い出すタイミングが掴めなくて、かといって掘り出すのもなんか汚いし面倒だしで、おれ親にすげー怒られて新しいやつ買ってもらったんだった」
僕を狼狽させるためだけに縦笛を犠牲にできる男、吉岡。
「めっちゃくちゃバカじゃん」
「大雨の中、家の庭を掘り起こしていること自体がすげえバカっぽい」
僕らはずっと笑いあった。
時間が解決してくれた過去のバカバカしい出来事はそれに向き合ったからこそ笑い飛ばせるのかもしれない。
昨今のご時世では、様々なことが向き合うまでもなく、自動的に回避されている。果たしてそれらは、長い時間が経ったあとに笑い飛ばせるだろうか。僕らはもっと様々なことに向き合う必要があるのかもしれない。 >>6
おい、おかしなこと言うな。眠れなくなったじゃないか ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています