【話題】おっさんは想定外の事態に弱い生き物である。 ジャパンカップで見たとある光景
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―[おっさんは二度死ぬ]―
想定外の事態に直面し、対処不能になっているおっさんを見ると心の奥底がキュッとなってしまう。おっさんは想定外の事態に弱い。なぜなら、おっさんの身の回りでは想定外のことがめっきり減ってくるからだ。
これはおっさんが聡明になってきて、あらゆることを想定して動いているからというわけではなく、おっさんの周囲、そんなダイナミックなことが起きない、という点に全てが集約されている。
長いこと人生ってやつを生きてきて、それなりに人生やら評価やらが定まってきて周囲の人間関係も大きく変化しない。あらゆることが想定内で収まる日常を生きる。それがおっさんだ。だから、想定外なことを見ると対処不能になってしまうのだろう。
先日、競馬のビッグレース、ジャパンカップを観戦するために東京競馬場へと赴いた。
あまりに楽しみだった僕は前日に一睡もできず、眠れないならもう行っちまうかと、まだ夜も明けきらないうちに東京競馬場に到着してしまった。朝五時だ。
当日もやはりジャパンカップの熱気はすさまじく、コロナ前に比べると少ないものの、東京競馬場は多くの人で溢れかえっていた。そんな折、強烈な腹痛が僕の身を襲った。11月下旬とはいえ、まだ本格的な冬には早いんじゃないと言いたくなるような寒さだったので腹が冷えてしまったのだと思う。
そうなると、途端に深刻になるのが競馬場のトイレ問題だ。やはり8万人を超える人々が競馬場に詰めかけているので、トイレは大混雑だ。男子トイレは女子トイレに比べて混みにくいものの、それでもなかなかに長蛇な列が形成されていた。たぶん、ここに並んでいたら漏らす。それくらいに事態は深刻だった。
しかしながら、僕は自他共に認める東京競馬場マイスターである。どのトイレが混みやすく、どのトイレが空いているのかを把握している。基本的に券売機の近くや、スタンド出入口の近くは混んでいる。いちばんオススメなのは競馬博物館の方のトイレに行くことだけど、少し距離があるので、ここでそれを目指すと途中で漏らしてしまう。
ここでそれを書いてしまうと穴場として機能しなくなるので、詳細をお伝えすることはできないが、え、こんなに空いてる? なんか騙されてない? と疑いたくなるレベルで空いているトイレがあるのだ。距離もそう遠くない。そんなに不便な場所でもないのに、人の動線からは外れている、そんな場所にあるトイレで、いわゆる穴場だ。東京競馬場マイスターの僕はそれを知っている。
さっそく、その穴場のトイレを目指すと、恐ろしいことにその穴場もやや混んでいた。他のトイレよりはマシとはいえ、この穴場がここまで混む、やはりジャパンカップの熱狂はすさまじいものだと実感した。
まあ、そこまで絶望的な行列というわけではないので、なんとかオナラで散らしつつ並んでいれば漏らすことはないだろう、ギリいけると判断し、行列に並ぶ。すると、その横のテーブルからおっさん同士の会話が聞こえてきた。
「だからさ、いくらイクイノックスといえども競馬に絶対はないわけよ」
トイレの行列から少し離れた場所に、ちょっとした飲食ができそうな背の高い机が置かれている。椅子はないのであまり長居はできないが、購入した飲食物を置くのに最適なテーブルだ。そこにビールを置いておっさん二人が激しくジャパンカップについて話し合っていた。
ただ、それは話し合いというよりは一方的な展開で、Dynamite!と書かれたジャンパーを着ているおっさんがPOLOと書かれたジャンパーを着ているおっさんに一方的に説法しているような状況だった。その言いっぷりがかなり早口で激しい。
「やっぱジャパンカップはイクイノックスで堅いね」
POLOが軽い感じでそう口にすると、Dynamiteの表情が鬼の形相へと変わっていった。
続く
以下ソース
https://nikkan-spa.jp/1961680 「まずイクイノックスが盤石ではない理由として挙げられるのが、イクイノックスはジャパンカップと同じく東京2400で開催された日本ダービーで負けている。ということは東京2400が苦手ということだけど、これはまあ、外枠だったし仕方ない部分はある。東京2400は外枠が圧倒的に不利だからな。今回は内枠なので手堅いと思わせつつ、それが罠なんだな。まず前走の天皇賞の走りも不安材料だ。イクイノックスはあまり体が強くないと言われていてレース間隔を開けながら大切に使ってきた。この1か月しかないレース間隔はとても不安要素だし、その天皇賞もレコードタイムという激しい走り、その反動が必ずある。そして、なぜならイクイノックスはここまでずっと盤石な展開ばかり経験していて想定外の事態に対応できないかもしれない。何が起こるのか分からないのが競馬だ。例えば出遅れたらどうする。そのまま被せられて包まれたまま力を発揮できなければ終わる。つまり想定外の事態が起こった時にオッズの妙味的に考えて……でもイクイノックスを複勝で買うのは絶対に間違いだぞ。頭が沸いてる。買うなら単勝しかない!」
こんな主張をかなりの早口で、それもかなりの激しさで、身振り手振りを交えながらめちゃくちゃ激しく主張してくるのだ。
「想定外の事態といえば、おれが宝塚記念でゴールドシップを買ってた時に……」
Dynamiteはさらに激しく喋り続け、領域展開がまだまだ続きそうだぞという気配が漂い始めたとき、POLOがそれを遮るようなジェスチャーを見せ、スマホを耳にあてて誰かと会話しだした。
「あ、ついた。うんうん、そう。何が見える? あ、大丈夫だね、そのまままっすぐ進んできて」
電話を終えたPOLOが説明する。
「実はさ、職場の女の子がどうしてもイクイノックスを見たいって言うからさ来ることになっているんだよ。友達もつれてくるみたい。若い子なんだけど、けっこう競馬好きな子みたいでイクイノックスのファンなんだけど、生で観戦するのは初めてみたいだから教えてあげてよ」
その言葉にDynamiteが明らかに動揺しているのがわかった。おそらく自分の領域、この東京競馬場という領域の中に若い女が入ってくることを想定していなかったんだと思う。
「こんにちはー!」
そこにゴリゴリのギャルが二人やってきた。スマホなんて凶器になるんじゃないかってレベルで色々なものがついているギャルだ。
「こっちが同じ職場の峰岸さん、そしてそのお友達」
「峰岸です。すごい人ですねー。楽しみ!」
「モモでーす。よろしくおねがいします」
ゴリゴリのギャルでありながらなかなか礼儀正しいようで、二人はDynamiteに向かって深々とお辞儀をしていた。さらに早めに打ち解けようとしたのか、ギャルのモモちゃんの方からDynamiteに近寄り、会話の切っ掛けを掴もうとする素振りを見せた。なかなかできたギャルだ。
「今日はイクイノックスで間違いないですよねっ!」
その言葉に僕は戦慄した。くる! Dynamiteのめちゃくちゃ早口イクイノックス不安要素理論が出る。これにはさすがのギャルもひいてしまう。それほどまでに勢いと圧がすごいあれがくる。かなり肝を冷やしてしまった。
「あ、うん……イクイノックスでいいんじゃないかな……」
赤面して下を向いている始末。なんで不安要素理論を展開しないんだよ。
「怖いからイクイノックス複勝にしようかなー」
「い、いいんじゃないかな。堅実で」
複勝で買うのは間違いじゃなかったのかよ。頭沸いてるとかいってただろうが。
結局、Dynamiteにとって競馬場と競馬友達という領域にギャルが入ってくることなど想定外なのだ。そしてその想定外の事態に対応できていないのだ。巷でよく聞くおっさんの理解不能な行動、この多くにおっさんの想定外が関連していると考える。それほどにこれは根が深い。
「いやー、それにしても峰岸さんとモモちゃん仲が良いね、同級生なんだっけ?」
POLOが会話の助け舟を出す。すぐにモモちゃんが答える。
「そうなんですよー。同じ高校で、しかもオナクラ」
その言葉にDynamiteが激しく反応する。
「オナクラ!」
こらこらこら。いまお前が想像しているようなあれじゃねえから。そういうんじゃねえから。ぜったいにお前、あっちのほう考えているだろ。
普通に考えれば明らかに「同じクラスだった」という意味なのに、Dynamiteは想定外の事態にショートフリーズみたいになっているので、もうわけのわからないことになっている。
続く 「へー、そうなんだ。実はさ俺もコイツと同じ高校でさ、オナクラ。それからの付き合い」
POLOの言葉にDynamiteが激しく反応する。
「オナクラ! そんなんじゃねえよ!」
こらこらこら。絶対にお前が想像している意味じゃないから。高校にそういうクラブねえだろ。普通に考えればわかるだろ。
4人には微妙な空気が流れていた。結局、おっさんは想定外の事態に弱いのだ。それはもう、自分の周りで想定外のことが起きないからだ。
さて、トイレの行列に並んでいた僕だけど、4人に注目していたら想像していたより早く列が消化されていき、あっという間にトイレの中まで入ることができた。そこで判明したのだけど、僕が並んでいた行列、小便器のほうの行列だった。大便器のほうは目立たない形でもう1つの列が形成されていて、しかもそっちの方が倍くらいの長さ。
「こりゃ漏らしたな」
あまりに想定外の出来事に、そのまま小便器にうんこしてやることも考えたけど、対応できず、漏らすことを覚悟した。そう、おっさんは想定外に弱いのだ。あと、お腹も弱いのだ。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています