昨年の12月13日、エムポックス患者の死亡例が、国内で初めて確認されました。「エムポックス」とはいわゆる「サル痘」のことです。以前に当欄で取り上げた直後、「エムポックス」へと名称変更されたのです。

 ちなみに「M」は、英語でサルを意味する「MONKEY」の頭文字です。「サル痘」という名称に関し、一部のコミュニティーで人種差別やスティグマのような表現が見られたことが世界保健機関(WHO)に報告されていました。これを受けてWHOは、「サル痘」ではなく「mpox」の使用を推奨すること、今後1年をかけて名称を移行していくことを2022年11月28日に発表したのです。日本では、「エムポックスにするか、M痘にするか」で議論があったそうです。

 エムポックスは、オルソポックスウイルス属のモンキーポックスウイルスによる感染症です。天然痘ウイルス、牛痘ウイルス、ワクシニアウイルスの仲間で、国内では感染症法上の4類感染症に指定されています。

 国内では、2022年7月25日に初めて感染者が報告されました。その後、2023年に入って感染者数が増加し、一時期は1週間に20人近く報告されることもあったのですが、5月以降は散発的な報告にとどまっています。

 通常、エムポックスの潜伏期間は5〜21日とされており、潜伏期間の後、発熱、頭痛、リンパ節腫脹、筋肉痛などが1〜5日続き、その後に発疹が出現、皮疹は性器・肛門が多く、次に多いのが体幹・四肢とされています。

 アフリカにおけるエムポックス患者の致死率は1〜10%ほどとされていますが、先進国では多くの場合は軽症で、2〜4週間後には治癒するというのが一般的のようです。ただし、乳幼児や妊婦、免疫不全がある人などは重症化する可能性があるとされています。亡くなられた患者さんは30代の男性で、海外渡航歴はなかったのですが、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染による免疫不全があったとのことです。

 エムポックスに対しては、日本国内で利用可能な薬事承認された治療薬はまだありません。そのため感染予防が重要で、不特定多数の人と密接な接触をしないことが大切です。感染した人の唾液の飛沫や体液、皮膚の病変などを介して、ほかの人への感染が起こります。感染者の多くで男性同士の性的な接触があったことが確認されました。ただ一方で、女性の患者も確認されていて、密接な接触によって誰もが感染する可能性があります。

 タオルやシーツなどを介した医療従事者の感染の報告があるため、手洗いや手指の消毒を行うことも重要です。感染者が使ったものは手袋などを着用して直接的な接触を避けて洗濯などを行う必要があります。

以下ソース
https://hc.nikkan-gendai.com/articles/279917