「絶望」ってどんな病気なの?

「人間は精神である。だが、精神とはなにか。精神とは自己である」。
ここでいう「自己」とは今生きている私自身のことです。
だから、本当の自分であろうとする自分から目をそらしている場合が「絶望」のはじまりです。
自分をごまかしている感じでしょうか。
また、キルケゴールによると、誰でも「絶望」に陥るとされます。
というのは、人間は一生、自分自身とつきあっていく存在だからです。
他人ではなく自分に対しての関係がうまくいかずに、自暴自棄になったり、投げやりになったときなどに「絶望」が生じるのです。
キルケゴールは、この絶望こそが、人間にとってもっとも恐るべき「死に至る病」であるといいました。
「絶望」するから「死ぬ」という意味ではありません。

「絶望」とは死にたいけれども死ぬこともできずに生きていく状態のことです。
肉体の死をも越えた苦悩が「絶望」です。
つまり、生きながら死んでいるようなゾンビ状態のことを「死に至る病」と呼んでいるのです。

いま、この国に、いや世界のいたるところで、経済的豊かさを追求する合理主義や、
個人の利益を優先する功利的個人主義の代償として、「死に至る病」が広がっている。

「死に至る病」は、キルケゴールが述べたような単なる絶望ではない。
精神的な救いが得られない精神的な死を意味することにはとどまらない。

「死に至る病」は、生きる希望や意味を失わせ、精神的な空虚と自己否定の奈落に人を突き落とし、心を病ませるだけでなく、
不安やストレスに対する抵抗力や、トラウマに対する心の免疫を弱らせることで、体をも病魔に冒されやすくする。
現代社会に蔓延する、医学にも手に負えない奇病の数々は、その結果にほかならない。