ポエム改行






彼が呼ぶ己の名が好きだ

ライ、と呼ばれるとき初めそこに感情はなかった
ただの記号に過ぎない偽りの名(コードネーム)にいつしか色がついた
対抗心の中にほんの少し好意を滲ませる年下の彼が微笑ましく見えたものだ
最も当時はそんな事思っていられるような関係ではなかったが

赤井秀一、と呼ばれるとき心にはいつも影が射した
憎しみと怒りと侮蔑に満ちたその声はいつでも俺の後悔を刺激した
いつか全てが終わったら彼に名前を呼ばれながら殺されるのもいいだろう
ただ、今殺されるわけにはいかないと呼ばれる度に気を引き締めた

沖矢さん、と呼ばれるとき穏やかな暖かさと身を焼くような熱を同時に覚えた
俺の偽りの名を呼ぶ彼もまた偽りの名を名乗っていた
真実の俺には到底見せない柔らかな微笑みと共に語りかける彼
彼穏やかに共にあれる偽りの俺に嫉妬を覚えた

そして今……
「秀一さん起きてください!休みだからっていつまでも寝てたら困ります。お布団干せない!」
幸せの真ん中に俺はいる
「零くんがおはようのkissしてくれたら起きる」
「もう起きてるじゃないか」
「kissしてくれ」
「起きてるならさっさと……」
「零くん」
「布団から出て……」
「れーい」
「……ああもう!わかりましたよ。ほら…………んっ、んん!」
「朝から熱烈なkissをありがとう」
「深いのにしたのはお前だろう赤井秀一いいいいいいい!」

どんな呼び方だっていいんだ
君が俺の名を呼応えられる距離に俺がいる
それだけでいい