3/3




見た目に反して柔らかな皮膚を突き破り、溢れ出る赤井の血液を舌で舐めとりカラカラに乾いた喉の奥へと送る。
生温かい赤井の体液が僕の中に取り込まれていく。
口に広がるのは焦がれ続けた錆びた金属のような味。
一滴も赤井の血を溢さないように僕は傷跡に沿って何度も何度も舌をはわせる。
人間の姿をしているのに赤井のうなじからは汗と混じってわずかに立ち上る獣の匂いが鼻腔をくすぐり、それがより一層僕の興奮を急き立てた。
自制できないほど狂おしく僕は赤井の血を求めている。
力強い腕に抱き留められながら飲み下す赤井の血液は、今まで口にしてきたどんなものよりも甘美な味がした。
「零君」
不意に名前を呼ばれて僕はハッと意識を取り戻す。
慌てて赤井の首から体を離すと、そこには赤井自身がつけた爪痕の他に牙の刺さった二つの傷跡がくっきりと浮かび上がっていた。
月の光に照されたわけでもないのに青白い赤井の顔を後悔の念に押し潰されそうになる。
「え、あ…ぼ、僕は…なんて、こと…」
自分のしたことの重大さに気づき、ぱくぱくと言葉にならない声で僕は喘ぐ。
ぐにゃりと視界が歪むような感覚がして、あれだけ血液を摂取したのに息苦しさで今にも倒れてしまいそうだ。
「零君」
もう一度、赤井は心地よく響く低音で僕の名前を呼ぶ。
ただ立ち尽くしたまま謝罪も弁解も紡ぐことができない僕の口を、赤井の唇がそっと塞いだ。
僕も赤井も禍々しい魔物なのに、それはまるで天使が祝福したような優しいキスだった。
「これで、君と同じだな」
唇を離してニヤリと口角を上げた赤井の口元からは、犬歯とは違う鋭い牙がのぞいていた。