なんかよく分からない罪悪感に駆られので>>546の続き

飲み会の次の日の夜、僕はヴィクトル様の寝所に呼ばれていた。
「ねぇ、勇利。昨日の晩は何処に行っていたの」
「…気分が優れなかったから早めに部屋に戻ったよ」
ふぅん、と目を細めるヴィクトル様から目を逸らして意味もなく畳の目を数える。

「どうして嘘をつく」
ヴィクトル様はいつもより低く重い声でそう言うと、僕の右手を掴み布団に引きずり込む。
「飲み会のあと、勇利の部屋に行ったけど勇利は居なかったよ…何処に行ってたのかなぁ」
そのまま着物の衿に手を突っ込み、脱がせられそうになるのを必死に抵抗する。ダメだ、今首筋を見られたら…!

「何…これ…」
ああ見られてしまった。今朝方にはついていた首筋のアザ。僕の、不貞の証。
「誰だ!誰に付けられた!」
こんなにも怒ったヴィクトル様を見るのは初めてだった。なんだか不思議だ。
「ヴィクトル様もそんな風に怒るんだなぁ…」
「…勇利、俺を煽っているのか?それと二人きりの時はヴィクトルと呼べと言ったよね」

怒っていていつもと色が違うヴィクトルの瞳を見ている内に今迄の僕の不満が自然と口から漏れ出した。
「別に僕が誰と何してようと、ヴィクトルには関係ないでしょ」
「勇利…本気で言ってるなら怒るよ」
「もう怒ってるじゃん!ヴィクトルだって奥方様が居るくせに!奥方様のこと抱いてるくせに…辛いんだ、ヴィクトルが奥方様と一緒にいるところを見るのが」


「…勇利…何か勘違いしてない?俺には奥さんなんていないよ?」
「…えっ?」

ヴィクトルによると僕がヴィクトルの奥方様だと思っていた相手は先日和平条約を交わした国の国主の妻であり、ここ数ヶ月うちの城で預かっているだけであると言う。

「で、でも家臣たちがお似合いだって…!」
「それは向こうの国主が嫁大好きでこっちの城にしょっちゅう会いにくるからね、政略結婚なのにアツアツだよね〜うちで預かってる向こうの国の家臣達もはやく子供が見たいってしきりに言ってるよ」
「…飲み会やら宴の時にヴィクトルの隣に座ってるし」
「そりゃ預かりとはいえ一国の姫だからね、変な扱いはできないよ」

…つまり、全部僕の勘違い?
「うわぁぁああ〜〜恥ずかしか〜!」
僕はなんて恥ずかしい勘違いを…

「誤解が解けたようで良かったよ…それより勇利、お前のそのキスマークの真相を聞きたいんだけど」
「こっ、これは!」
「…相手は誰?そいつのこと教えてくれれば勇利の不貞は不問にしてあげる」
「ごめん!ごめんねヴィクトル!僕…ヴィクトル以外の人と…


野球拳しちゃった!」
「………野球拳?」
「部屋にお酒呑みにこないかって言われて…お酒を呑んでデロデロになったまま僕…ぼく…」
「ああ、うん…野球拳ね……それならそのキスマークは何?」
「え、これはキスマークじゃなくてただのアザだよ。服脱ぐとき腕が棚に打つかっちゃって落ちてきた置物がぶつかっちゃって…」
「本当に?」
「本当」

僕たちには話し合いというものが圧倒的に足りないらしい。
誤解が解け、その晩は久しぶりに心置き無くヴィクトルと熱い夜を過ごした。


「ところで勇利、その野球拳した相手って」
「ああ、モブおじさんって云う人だよ。ヴィクトルも知ってるでしょ?」
「あぁ、彼ね。うん知ってるよ……成る程ねぇ」