パリ零(警察学校時代)出会い(2/4)

「なんか事件だって」
「事件?」
「人が刺されたらしいよ」
実感がないのか、内容のわりにその女子高生二人組はやけにミーハー調子だった。
もしかしたらSNSで拾った情報なのかもしれない。だとしたらデマか誤情報の可能性も高いが、いかんせん事件と聞いてはじっとしていられない赤井である。
まさか小説を諦めた途端本物の事件に出会えるとはな…と聖なる夜に天罰を食らいそうなことを考えながら頬を染める女子高生に道を訊き、流れに逆らって現場に向かう。
しばらくして人の視線が街の目玉のツリーから反れて違うものに集まっている場所に出た。周囲に警備用とは違うパトカーが並んでいる。
間違いない、ここが現場だ。野次馬の肩を押しのけて強引に割って入る。
幸い上背があるので最前列まで進まなくても現場の様子は伺い知れた。
被害者はジュエリーショップのショーウインドウにもたれかかる様にして仰向けの状態で倒れていた。
右手に腕時計をしていることからしておそらくは左利き、しかしナイフを握っているのは右の手で、血は手のひらの内側に隠れる程度にわずかしか付着していない。
地面には血痕が足跡のように残っている。飛沫の大きさからするとちょうど被害者が前かがみになったくらいの位置から落ちたものだ。
刺された状態で移動したのだろう。近くで見るまでもない。れっきとした他殺体だった。
警察もそれは把握しているらしい。辺りを見回すと、KEEP OUTのほんの手前、数名の刑事に囲まれた若い男の集団が見えた。
自分より2、3ばかり下だろうか。若いとはいえさすがに中学生とはいかない年齢の男達が五人ほども集まっている光景はカップルだらけのこの日には多少浮いている節があった。
どうやら現場に居合わせた重要参考人のようだ。
整った顔立ちの癖っ毛の男が刑事に食って掛かっているのを長髪の男が半ば面白がった表情で宥めている。
その隣の頭一つ分背の高い角刈りの男は刑事かと思いきやどうやらこれも彼らの仲間のようだった。
系統もバラバラな男達の姿にどういう知り合いなのかいまいち図りかねていると、不意にその三人の後ろに隠れていた金髪の少年ーー
けして小柄というわけではないが、他の連中の体格がいいせいか一人だけ妙に"少年"という感じがしたーーが小さくくしゃみをするのが見えた。
もう一人の見るからに人の好さそうな青年が気づかわしげな表情で彼に声をかける。すると金髪の少年が軽く鼻を抑えながらこちらを振り返りーー、