パリ零(警察学校時代)出会い(4/4)

「おい松田、落ち着けって」
少年に諫められて、癖っ毛の男がむっとしたように声を荒げる。
「お前は落ち着き過ぎだろ。少しは焦れよ、殺人犯扱いされてんだぞ!」
「刑事さん、何度も言うようですが俺達は警察目指してるんです。人殺しなんかしませんよ。特に零にとっては子供の頃からの夢なんだから…」
この落ち着いた、しかし批難の色を隠さない言葉はさっきの好青年のものだ。
ゼロというのは少年のあだ名だろうか。無機的で可愛い彼には似合わないような気がしたが不思議とマッチしている気もする。
それにしても小さい頃から一途に夢を追っていたとはなんという可愛さだろう。
中身まで好みとはこれはもうイブの奇跡を信じざるを得ない。
だがこれは一体どういうことだ。まさかあの天使のような少年に血なまぐさい容疑がかかっているというのか?
思わず身を乗り出す。
角刈りの一際ガタイの良い男と、軽薄そうな、それでいて油断ならない目つきをした長髪の男が後を続けた。
「そうだぜ。俺でも一度も勝ったことないんだ…うう、ちくしょう」
「むしろ降谷ならもっと上手くやるよな、バレないように。一切の跡を残さず」
「萩原…、お前は逆に黙ってろ」
少年がジト目で長髪男を睨む。そんな顔すらもが可愛い。
だが現場責任者らしい年配の刑事はあからさまな疑いの目を少年に向けて背けようとしない。
老眼で少年の可愛い顔が見えていないのか、もしくは見えていて可愛いから意地悪しているのか、はたまたいちゃもんをつけて連行した先で無理矢理違法調査をする気なのか。
10年後の自分に高精度ブーメランで跳ね返ってくる発想を脳内で繰り広げて赤井は憤慨した。小学生男子は自分はいじめても他の男がいじめるのは許せないのである。
それによく考えると、殺人犯の濡れ衣を着せられそうなところを救われるというのはなかなかないほどにポイントが高い。
他にお近づきになる方法など考えたところで当たり屋くらいしか思いつかない赤井は内心でガッツボーズを取りつつ少年の救済に向かおうと足を踏み出した。が、その瞬間。
「というかですね、あのーー犯人なら、僕わかってると思いますけど」
少年が、あっさりとそう言ってのけた。