新婚SS 👺😺


男と出会ってもう二年になる。
彼は最初の自分の余裕のなさを思いだして苦く笑った。思えばあんな必死さはうっとおしいだけだろうに、よく長く付き合ってくれたものだ。
依存体質の自分を厳しく叱り、しかし愛情は欠かさなかった。言葉は上手いとは思えないが、大切なことはきちんとまっすぐに伝えてくれる。
その安心感から彼は不安から抜け出せた。もう束縛や暴力を愛情だと勘違いすることもない。
余裕があると気づくこともある。
大丈夫だ、と伝えているのに男は彼が出かける時の送り迎えを進んでする。
意外と過保護だ。
前の自分はそんなことに気付きもしなかった。きちんと愛されている。愛している。それはとてつもなく幸福な時間だった。
その時までは。

「なんだ、元気にしてるじゃん」
その声を聞いた瞬間、一気に血の毛が引いた。かつての自分から克服できたと思っていた。
昔は異常でそれに慣らされていたのだと…洗脳されていた。だから自分は被害者で、かつては…悪いのは目の前の男で利用されていただけ…それなのに体は抵抗することができなかった。
腕力だけならきっと拮抗するのに…
いや本当にそうだろうか?
もしかしたら逃げだした自分に悪い所が、あったから追いかけて来たのか?
ぐるぐると混乱する彼を捕まえたまま元彼が歩く。まともになれたと思っていたのに、恐怖心はまだ彼を縛り付けていた。
「いまの奴とは仲良くしてんの?可愛がって貰えてんの?まさか恋人とか言わないよな?お前なんてただの×××なのに」
いつの間にか薄暗い路地に来ていた。人目がなく、声も届かない。頭の中では叫んでいるのに、現実では喉が詰まっている。

「足開けよ。すぐに終わるし、お前も嬉しいだろ」

衣服を、こじ開けられようとした。
こんなに嫌なのに、固まことしかできない。相手の目を見れない。抵抗しようと思うのに、過去の虐待がフラッシュバックする。
「ぃゃ、だっ」
「黙れよ」
ようやく出せた声はとても小さく、それが元彼を刺激した。すぐに拳が振っり下ろされ、眉間を強く撃つ。
一瞬よろめいて、壁に背中をぶつけた。
逃げたい嫌だ。
こんなやつ大嫌いだ───!

「そげぶっ!!」
ドゴンと固い壁に何かがぶつかった。元彼だった。元彼の皮ジャンが自分の頭の真横にある…
「え…?」
思わず間の抜けた声をだしてしまった。あんなに怖かったのに、変な声をだして、元彼が壁に持たれかけている。
「なにすんっ……!」
振り返った元彼は最後まで言えなかった。背後に迫る“男”を見たからだ。
彼の見るかぎり、男の顔は普段と何も変わらないように見えた。不機嫌そうないつもの表情。額に青筋を立てている他には。
男の手は元彼の襟を掴み、全身で逃げようとするのを片手で押さえ込む。何も言わないのが特別怖い。

「こっころさないで…!」
ついそう口をだしてしまうのは男の出す気配があまりにも…
男は彼の姿を一通り眺め、怪我がないのを確認すると、 
「わかった。殺さん





殺しは、しない」