「ただいま」

玄関のドアを開けて暗闇に声をかける。
倒れるようにヒールを脱いでリビングへと向かう。
暗闇はスンとも言わず黙っている。
灯りをつけても、何も反応しない。

「はぁ...」

喉が渇いたのでキッチンに向かう。
食器棚を通りすぎたところで、ふいにシャツの裾を引っ張られる。

「なに?」

暗闇は返事を返さない。
またため息をついて行こうとすると、また引っ張られる。

「何なのよ?」

振り向いた私の目に映ったのは、裾に引っかかるうちわの持ち手だった。

「はぁ...」