毒親ていうか田舎の世間体親に殺される妹が重なってしにそう

鬱の妹を隠そうとする田舎の家族… 鴻上尚史が訴える30年後の悲劇

【相談4】「鬱の妹が家族に冷たくされています」(相談者:38歳 男性 農家の長男)

 西日本の片田舎で、果物農園を営んでいる家の長男です。
相談は、鬱の妹に冷たい家族のことです。3歳下の妹がいて東京でアイドルを目指していたのですが、
芽が出ないまま30代になり苦しんでいたようです。
途中で鬱症状を発症し、昨年、母親が実家に連れて帰ってきました。

 ですが、父や祖父、祖母の妹への態度が冷たいのです。妹が外出するのも嫌がります。
何も言えない母親は、ただ黙っています。心の病気を患っているのは明らかなのに、
「あまい夢をみて。だから反対したんだ。もう嫁にもいけない歳だ(妹は35歳)」と言うばかりで最初は病院にすら行かせようとしませんでした。
都会に住んでいる人にはわかりづらいかもしれませんが、地方では、今でも鬱に対して世間の目が厳しいところがあるので、
世間体を気にしているのです。

【鴻上さんの回答】これまでの相談の中で、一番深刻

事態がまさに今重大な方向に進行中である、ということはもちろんですが、
そう追い込んでいる人達にまったく自覚がなく、
なおかつ相談している農家の長男さんにも、事態の深刻さが充分に理解されてない、と思われるからです。

先月、僕は「同調圧力の強さと自尊意識の低さ」は、日本の宿痾(しゅくあ)だと書きました。
同調圧力の最も強いもののひとつが「世間」です。
田舎になればなるほど、高齢者になればなるほど「世間」を強く感じます。
つまりは、同調圧力が強まり、逆らえなくなるのです。

先日、ネットで「うつ病は、脳のこむら返りみたいなものだ」という表現を見ました。

 これは、「うつ病なんてのは、気合が足らないんだよ。根性とガッツで乗り越えるんだよ!」と言いがちな体育会系の人達(いや、もちろんイメージですが)にも、
「こむら返り」は気力や根性ではなんともならない病気だと簡単に理解できる、とても的確な言い方だと思いました。

妹さんの状態がうつ病、またはうつ状態だとしたら、自然に治る可能性はないと思います。
それどころか、確実に悪化するでしょう。外出することを嫌がられ、
「もう嫁にもいけない歳だ」などという言葉を日常、受け続けているのなら、さらに精神が荒廃する可能性が高いからです。

それでね、農家の長男さん。
世間体を一番大切にしている人達は、変化を嫌います。

 真夏の高校野球が、どんなに高校生が熱中症になっても続くのは、「所与性」にみんな従っているからです。
先月、この連載で書いたように、アジア・太平洋戦争中、効果のなくなった特攻攻撃を続けたのも「所与性」です。

 世間体を気にして、妹さんの状態を無視していても、とりあえず、世間付き合いは続き、
家及び自分達の評価が下がることも村八分になることもない、と家族の人達は考えるのです。

 でもね、農家の長男さん。この時間は永遠に続くのでしょうか?