>>113
攻めと受けが初めて顔を合わせたのは、今から15年前のことである。
当時4歳だった攻めは、いつになく上機嫌な両親に手を引かれ、とある富裕層の集まる区域へと足を運ぶ。
物語の中でしか見たことのない広大な私有地、その奥にそびえ立つ豪奢な家。品のよい調度品の立ちならぶ客間。なにもかもが攻めには新鮮だったが、攻めの心をなによりも強く惹きつけたのは、たった一人の幼子だった。

「ほら、攻め、ご挨拶なさい。これからあなたがお仕えする事になるお方よ」

母親に促され、攻めは幼子──受けへと目を向ける。ぬばたまの黒髪にふっくらと柔らかな肌。まろい頬をほの赤く染めて、受けが攻めにほほ笑みかける。
ふいに心臓を鷲掴まれる心地がして、攻めは自身の胸を手で抑えた。息を、吸っても吸っても、すぐさま肺から酸素が抜け落ちていくようで、息が苦しい。
それがなにを意味するか理解できないまま、ただ、攻めは受けに恋をした。初恋だった。