>>208

この温厚そうな中年男は担任の山村だと名乗った。
山村の後ろについて廊下を進むうちに、だんだんと賑やかな声が近づいてきた。
「君のクラスはここ、2年B組だよ。さ、入って」
山村が教室の扉を開けるとそれまでのざわめきがしん…と静まり返り、人々の視線が一斉に自分へ向けられたのを感じた太田は居た堪れなくなり思わず俯く。

「はい着席!今日からこのクラスの仲間になる転入生を紹介する」
「G市から来ました太田訓です。…よろしくおねがいします」
「太田の席はあそこだ」
担任が指差した窓際の席へ座ると隣の席の男と目が合ったので軽く会釈した。
「僕は瀬川、瀬川夏樹。よろしく」
「よろしく」
「太田君って面白い名前だね。くん君じゃ変だし。くんちゃんでいい?」
変わった名前をからかわれるのは慣れているが、何故こいつは初対面でいきなり下の名前で呼ぼうとするのか。
しかもちゃん付け。
瀬川の馴れ馴れしさに戸惑うのと同時に少々腹立たしくもなったが、転校初日から揉め事を起こしたくもない。
「…なんでもいいよ」
太田はぶっきらぼうにそう答えると話を続けようとする瀬川から顔を背けた。