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休み時間になった。瀬川に話しかけられるかと思ったが、最初の馴れ馴れしさが嘘のように彼は太田に目を向ける事も無く教室の隅にたむろしている友人たちの所へ行ってしまった。
内心ほっとしていると、別の男が太田の席の前に立ち「俺は学級委員の田中だ」と名乗った。七三分けの黒髪に黒縁眼鏡のその顔はいかにも学級委員然としているが、背がやたら高くガタイがいい。

「わからない事があったら俺に聞いてくれ。昼休みには校内を案内して食堂に連れていく」

それだけ言うと、山田はさっさと自分の席に戻っていった。なんともドライな対応だが、太田にはそれが有難かった。

そんな2人のやりとりをひっそりと見つめていた視線が一つ。友人の輪の中で仲間の話を聞くふりをしながら、瀬川はずっと太田に視線を向けていた。