わらしはその人を常におねちゃと呼んでいた。だからここでもただおねちゃと書くだけで本名は打ち明けない。これは世間を憚る遠慮というよりも、その方がわらしにとって自然だからである。
わらしはその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ「おねちゃ」といいたくなる。筆を執っても心持は同じ事である。よそよそしい頭文字などはとても使う気にならない。