イチローっていうんだって。
正直、誰だ、と思った。だって、知らないよ、鹿児島の田舎もんだから。おれは巨人戦しか見なかったし、ニュースの時間は寝てたから。だいたい、おかしいじゃん、イチローってカタカナだし。
すぐにスポーツニュースを見た。イチロー選手が打って、走る姿を見て、こんなスマートな野球選手がいるのかって、ビックリした。
強いプロ野球選手といえば清原和博選手とか松井秀喜選手とか、体が大きいと信じてた。それが、あんなに体が細いのに誰よりも強い。誰よりも飛ばすし、誰よりも速い。
まさに、光だった。
あれだけ細くて、誰よりも活躍できている。おれは小さい体だからと、どこかであきらめてる。こんなんじゃ、ダメだって、勇気をもらった。
今のおれにはそんなこと、絶対に言えないけど、何も知らない中学生だったおれは、イチローにできるんだからおれにもできるって、思った。
見た目だけの判断だったのかもしれない。あんなに体の細いイチローにできる。体のでかいピッチャーを倒せる。ヒットや ホームランをいっぱい打てる。
まるで、スーパーマンじゃないか。
昼には普通のサラリーマンなのに、いきなり夜はとんでもなく強い。イチロー選手を見たとき、そう思った。
こんな細い体で打てるわけがないのに、なぜ誰よりも打てているんだと、イチロー選手を見たとき、本当にそう思った。
おれもスーパーマンになりたい。おれ、体ちっちゃいけど、イチローみたいになれるかもしれない。
おれの脳みそがそう言ってた。清原みたいにはなれない。でも、イチローにはなれるかもしれない。おれの脳みそがそう決めたんだ。イチロー選手が打てるんだから、おれも打てるかもしれない。
本気で思ったのはおれだけじゃないと思う。おれはそういういっぱいいた野球少年のうちの一人だった。