任務で負傷し蝶屋敷で療養していた。
待たせてすまない。

煉獄杏寿郎は珍しく煩悩に囚われ懊悩していた。
脳裡にこびりついて離れないあの日の猗窩座の声、逞しい肉体、からみつく舌先、激しく執拗な揺すぶり、堪えきれず身悶えし喘ぐ杏寿郎に容赦なく向けられる舐めるような視線。
あの忘れたくとも忘れられず、離れようにも離れられない生々しい交ぐわいの記憶に、杏寿郎は身も心も飲まれ溺れていた。

煩悩を払拭すべく必死に鍛練に打ち込むも、心は猗窩座を想ってしまう。猗窩座を求めてしまう。
なぜだ。凌辱されたというのに。
こんな気持ちは生まれて初めてだ。胸が苦しい。
よもや猗窩座を好きになってしまったというのか。
そんなはずはない。あり得ない。認めない。許さない。

「杏寿郎」
はっと驚き振り返る杏寿郎。
「鬼の気配に気づかないのか。それでも柱か?」
ニヤリと笑う猗窩座を無言のまま睨む杏寿郎。
しかしその態度とは裏腹に、否定しようもない叫びが心中にこだまする。
ああ、やっと来てくれた、会いたかった、淋しかった、猗窩座、猗窩座、猗窩座。
押さえきれない欲望が止めどなく込み上げ、身体の芯が熱くなる。
この後の展開を期待している自分に気づき杏寿郎は戸惑いを覚えた。

次の瞬間、猗窩座は杏寿郎を背後から羽交い締めにしていた。
猗窩座の動きを目で追うこともできないほど、杏寿郎は逆上せていた。
「今日のお前は妙だな杏寿郎。あの練り上げられた闘気はどこへ行った。これではまるで弱者も同然だ。」
弱者。そのとおりだ。鬼相手に惚れた弱みでこの体たらく。
これが名門煉獄家の長男か。母上が聞いて呆れる。情けない。面目ない。
しかし欲しい。どうしても猗窩座が欲しい。猗窩座…

猗窩座は羽交い締めのまま杏寿郎の柔らかな髪の上から首筋に口づけた。
抵抗しない杏寿郎。
力強く吸い付き手籠めにされたことを知らしめる烙印を残す。
ああ、猗窩座に抱かれる。
竹刀を落とし目を閉じた杏寿郎を、猗窩座は乱暴に向かい合わせにした。

「フッ、鬼を相手に目を瞑るとは何事だ?」
面白くて仕方ないというふうに笑みを湛えた猗窩座は杏寿郎に接近し易々と唇を奪った。
杏寿郎は内心猗窩座を激しく求めるも、欲望と理性とが葛藤し微動だにしない。
受け身に徹する杏寿郎の唇が猗窩座の舌先によって開かれる。
猗窩座を迎え入れる杏寿郎。
おとなしく従順な杏寿郎にやや物足りなさを感じながらも、杏寿郎の変容に興奮を覚える猗窩座。

杏寿郎が全身全霊で俺に集中している。俺だけに。
杏寿郎は俺のものになったのか?そうなのか?
動揺し、その答をまさぐるかのように猗窩座の行為が激化する。
強引に隊服を剥ぎ取り杏寿郎を剥き出しにすると、堅く恥じらう芯を握り上下に擦る。
それでもなお抵抗せずじっと耐える杏寿郎にたまらない愛しさを感じた猗窩座は、不覚にも涙し、手の動きを止めた。

「杏寿郎…」

目を閉じたまま静かに全身を猗窩座に委ね続ける杏寿郎。
言葉より確かな愛の顕示が肉体を通じ真っ直ぐに猗窩座に向かっている。

「杏寿郎、お前、そうなのか?お前…」

猗窩座の問いに答える代わりに杏寿郎は両手を伸ばし猗窩座の頬を包むと、己の唇で以て猗窩座の言葉を遮った。

今日はここまでだ。
しばらく任務で来られないが、また続きを書きに来る。