「お前に指図されるいわれはない」
「なら俺が帰る」
苛々とした口調で吐き捨て席を立った杏寿郎に、猗窩座からはまたしても大仰な溜息が返ってくる。
そんな猗窩座を無視してカウンターから離れると、杏寿郎の後を追って猗窩座も席を立った。
「ついてくるな」
フロアを出て、人気のない裏口から外に出ようとしていた杏寿郎は、薄暗い通路の真ん中で足を止めて後ろを振り返った。
が、予想以上に猗窩座との距離が近くて、吃驚した杏寿郎が息を呑む。
「ちょ、猗窩ざ・・・」
猗窩座の身体を押し遣ろうとした杏寿郎の手は逆に猗窩座に掴まれ、身体を引き寄せられる。
そしてあっと思う間もなく、杏寿郎の唇には呼吸すら奪う勢いで猗窩座のそれが被さってきた。
強い酒を流し込まれたかのように、脳内が痺れて、くらりと眩暈がする。
押し入ってくる猗窩座の舌や唾液の味が、杏寿郎の意識を瞬く間に過去へと還らせる。
口付けられたまま通路の壁に身体を押さえつけられ、更に深く角度を変えながらキスを交わす。
猗窩座の手は杏寿郎のシャツをスラックスから引っ張り出すとその隙間から直に肌を弄り始め、その焦れったい動きに杏寿郎は合わさった唇の隙間から鼻にかかった声を漏らしてしまう。
「ん、ぁ・・・」
「タクシーを呼ぼう」