恭介にはおぼろげであるが前世の記憶がある
江戸時代くらいか、見窄らしい着物をきた恭介横たわっているのはどこぞの稲荷神社
息も絶え絶えで今にも命が尽きようとしている彼の側には見慣れぬ色の長い髪した男が立っていた
視界が霞んでよく見えないが頭には獣の耳らしきものがあり薄く開いた唇からは発達した犬歯がのぞいている
異国のものの様に奇妙な色を瞳は眼光鋭く真っ直ぐに恭介を見下ろしていた
この獣に食われてしまうのか、そう思いならば運命に身を委ねようと瞼を閉じた時、男の声が降ってくる
「助けてやるが、必ず対価は払ってもらおう」
記憶はここで途切れている
そして今目の前に立っている男の話をしよう
陽光に透ける栗色の髪、おそらく日本人ではあり得ない色素の薄い瞳の色、薄ら笑いを浮かべる唇からのぞく犬歯、さっぱりとした短髪であるしまして獣の耳などは生えていない
あまりに印象深い記憶であるため意識が引かれているだけに過ぎないと思う
現代社会で瞳や髪の色が違うことはなんでもないことだ
自分に言い聞かせる様に思考を走らせる
恭介の背を一筋の汗がつたう 男と対峙しているこの瞬間が異様に長くかんじられた
記憶にはない、おもいだせない何かがこの男が危険であると警告しているかの様に心臓が早鐘を打っている
一刻もはやくこの場を離れようと右足を後ろへ滑らせたそのとき、男は口を開いた
「対価をはらってもらおうか」
細められた目は、まるで狐の様だった