オッペンハイマーの招聘を受けて、プリンストンでの研究生活を開始した直後、アインシュタインから湯川の研究室を訪ねたいという連絡が入った。
彼の晩年を決する衝撃的な出会いがあった。
湯川がドアを開けると、表情のこわばったアインシュタインが立っていた。
アインシュタインは部屋に入るや否や、左右の手を伸ばし、湯川の手を握りしめた。
老人とは思えない強い力を湯川は感じた。
突然、皺に囲まれた老人の大きな目から、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「何も罪のない日本人を、原爆で傷つけてしまった。許してほしい」。
肩を震わせながら、何度も何度もこの言葉を繰り返したと言う。
アインシュタインといえば、物理学の頂点に立つ大天才である。
この歴史的大人物が幼子のように一人の日本人の前で泣きじゃくるのである。
ここに彼は学者の良心を見た。
学者は研究だけをしておればいいというものではない。
研究の結果には、自ずと責任が生ずる。
学者である前に、まず人間でなければならない。
アインシュタインの姿を通して、湯川は学者の良心を垣間見たのであった。
https://www.ifsa.jp/index.php?kiji-sekai-yukawa.htm
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