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そして翌日。

おじいさんはいつも通り仕事を終えて、いつも通りの時間に家へ帰ってきました。
水色の軽自動車が家の小さなカーポートに入ってきます。
ヴヴヴーンというエンジン音、バタンと扉を閉める音。
これはいつも聞き慣れている音です。

あ、おじいさんが帰ってきたぞ。

今宵、その車の音を聞いて嬉々としているのは、どうやら駆除人の私だけのようです。

私はワクワクしています。

猫達はくるかニャ?? 猫達はくるかニャ??
近くにいるなら「最期に」顔だけでも見せにきて欲しいニャ!!

そんな風に高揚している私をよそに、おじいさんはいつも通り玄関へ入って行きます。

物置の戸が開く音。ガラガラガラ
そして餌が配膳される音。カラカラカラ・・・

おじいさんは家の中へ入って行きました。ガシャン

私はおじいさんの家から少し距離をとった場所から、不審者のごとく玄関を注視しています。

数分経っても猫が現れる様子はありません。

あれれ、どうしたのかニャ?今日も美味しい晩御飯が待ってるよ???

今宵、私の右手はすでに手ぶらです。
珍しく他の持ち物さえ何も持っていません。

なぜなら昨日の完食具合と、混ぜ込んだリン化亜鉛の量からして、遅かれ早かれ3匹とも虹橋への片道列車に乗り込んだと確信したからです。
彼らが乗り込んだ列車に帰りの便はありません。行ったら行ったきり。某ジブリ映画のあれですね。

今宵の私は猫達にお別れを言うためだけに来たのですから、まだせめてどこかに居てもらわないと。
さあ猫達はどこかニャ?? 列車はもう天空に向けて出発してしまったのかニャ??

私は周囲を探します。
人目を警戒しながら、家の狭い路地や、車の下などを見て行きます。
彼らは毎晩ここで餌をもらっていたのだから、わざわざ遠くへ行ったりはしないんじゃないですかね??