このときに作られた紙芝居は、梯久美子さんが書いた評伝『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』(文藝春秋)によると、ドラマより固いタイトルの『双生譚』という作品だったそうです。
その内容を簡単にまとめると、「離れ離れで暮らしていた双子は、どちらかが傷付くともうひとりも痛みを感じていた。
ある日ふたりは敵として出会い戦うが、相手を殴ると自分も痛いことに気付き、そこでお互いが兄弟であることを知って仲良くなる」というものでした。

 日中関係を双子に例えた心温まる物語に思えますが、これを福州(現在の福建省の省都)の人びとの前で披露すると、大笑いされてしまったそうです。
やなせ先生の表現を借りると、「満場大笑い」といえるほどの爆笑でした。
どうやらそのときに通訳を頼んだ中国人が独自で訳を付け足していたようで、中国語が分からないやなせ先生は「これにはまいりました」と振り返っています。

 また、福建省の人びとは、そもそも中国と日本の戦争を自分ごととしてとらえておらず、「あれは他国の話だ」「上海での話でしょ」などと、戦争していること自体を信じなかったそうです。
あまりにも広大な国ゆえの出来事でした。