「実録、同級生3」
11年エルフ組 ひるたまさと

●第一話
数年前の夏、とある女性のおかあさんに呼び出されてしまいました。
場所は東京都下の某病院、1階ロビーの喫茶店です。
おかあさんは僕を怖い顔で睨んでいます。
いい年していったい何をしているのか、と僕を責めます。
おかあさんの隣に座っている女の子は、僕が責められている間、ずっと泣きそうな顔をしてうつむいていました。
もちろん最初に、とある女性と言ったのはこの女の子の事です。
彼女は黙ったまま顔を上げようともしません。
おかあさんは「もう二度と会わないでください」と言いました。
僕はコクリと頷きます。
3人で喫茶店を出て一緒の電車に乗りました。
おかあさんと女の子は家へ帰る為に、そして僕は会社へ向かう為です。
電車の中では誰も口を開こうとしません。
やがて彼女達の降りる駅へ着きました。
僕は反対側の扉の前に立ったまま、わざとらしく窓の外を眺めています。
おかあさんの「早く降りなさい」と言う声が背中から聞こえてきました。
その後、小さく「いやだ」と言う声も聞こえてきました。
その声と同時に服の裾を少し引っ張られた気がします。
やがて発車のベルが鳴り、扉の閉まる音がしました。
電車が動き始めてからしばらくして、僕はゆっくりと振り向いてみました。
もしかしたら、と言う気持があったのかも知れません。
しかし、そこにはもう誰もいませんでした。
電車は僕一人残してゴトゴトと揺れています。
その時、僕はほんの少しだけ胸が痛くなりました。
そしてあの「いやだ」と言う短い言葉を最後に、二度と彼女の声を聞くことはありませんでした…。