「あ、ここやった。ごめんねー、メンズ水入らずのとこ、お邪魔して」
思い出に耽っていた俺は、聞き覚えのあるハスキーな女性の声で我に返った。
「イヤイヤ、野郎二人やと油っこすぎやな思てたとこですわ」
それまで俺に気を遣っていたのか、静かに呑んでいたFさんが明るく応じている。 俺は個室の入り口に目をやった。グリーンの柔らかなノースリーブワンピース。V字に切れ込んだカシュクールの胸元から覗く、豊満な乳房の稜線。
その美しい曲線に沿って蜂蜜のように流れる、ウェーブのかかった長い髪。 色っぽい鎖骨からスッと伸びた細く長い首、小さな顎、整った鼻梁、細いつり眉に垂れ目気味の大きな目。

麻衣子さんだった。

「Aさん、先日はどうも」
しなやかに髪をかきあげながら、麻衣子さんが笑いかける。昨夜、情熱的に肌を合わせ、俺に恋心を打ち明けたことなど、噯気(おくび)にも出さない。
「あ、どうも」
「お隣、座ってもええ?」
「どうぞ」
わずかに甘い柑橘系の香りをさせながら、麻衣子さんが隣に座った。ノースリーブから露出する二の腕に触れ、自然と身体が硬直してしまう。