その爺さんに会ったのは、こじんまりとした地味な居酒屋だった。
オレは学生時代から歴史が趣味で、相当詳しいつもりだった。
ところが、魚料理をきっかけに偶然話しかけた、いかにも難しそうな爺さんは、そのオレが驚くほど歴史に明るかった。それも、日本だけじゃ無く。
自慢じゃないが、オレだって狂ったように本を読んでいたつもりだ。それに地方の寺社なんて相当にこの目で見ている。そのオレが、子供扱いされるレベルだったんだ。
ともかく、仲良くなって、毎週末、その居酒屋で飲んで、その爺さんと話すのが楽しみになった。
お互い、自分の話なんてほとんどしなかった。趣味の合う飲み友達にそんな話は不要だと思っていた。
それが、ある時、その爺さんが女を連れてきていた。
すこしぽっちゃりして和服を着た、とんでもない美人だった。
オレは最初爺さんの娘かと思ったくらいだった。
どうやら、爺さんがオレのことを随分気に入って家で話していたらしく、それで気になって見にきたのだ、とコロコロと楽しそうに笑うのだった。