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 シンがハツの受胎とアニの種付け状況を公表すると、集落の者は喜びにあふれた。
 これまでずいぶん心配させられたが、実はアニはとてつもない好色なのでは無いか?とまで噂され始めている。船で乳牛を拉致することをしなかった時代のことではあるが、アニの父君である風神は大変な好色で、戦に出た先でもたくさんの乳牛を抱き、たくさんの子を産ませたと言われている。
 外見は優雅で繊細なのに、中身は勇者にして絶倫、さすがアニは風神さまの生まれ変わりだ。と皆は噂する。
 
 生殖能力まで心配された反動で、逆に今度は好色・絶倫に振り子が振れているのか、とトンは苦笑する。アニが今まで乳牛に触れようとしなかった事も、これまで戦のために厳しい節制をしていたからに違いない、と畏敬をもって受け止められているほどだ。
 しかしそんな噂の一人歩きも歓迎だとトンは思った。アニの神話がこれで完成する。アニの権威はますます揺るぎないものになる。ナギとのことも無邪気な稚児遊びとして、かえってアニの神話に花を添える挿話になるのかも知れない。

 そして、この強力なアニの神話は、トンの夢見る集落の100年計画の追い風になってくれるだろう、とトンは思う。
 そしてそれが軌道に乗ったならば、ナギが天馬の生まれ変わりにして海神の孫であることは、ナギの神話の形成に大いに役立つだろう。ナギの祖母がどのような怪物であろうと、人々はそれを気にもとめなくなるのでは無いか、とトンは高揚した気持ちで思った。