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 「ナギにも困ったものだ」とアニはトンに言う。
 「俺にもいろいろ言ってきてるし、乳牛のことをあちこちで聞き回っているようだな」とトンも言う。
 「ここに潜入してのぞき見しようとしている節があるんだ。種付けへの単純な興味も大きいが、俺が乳牛に絡め取られてしまうんじゃ無いかとずいぶん心配していて・・」とアニは苦笑する。
 「ナギは春からずいぶん背も伸びているが、あっちの発育はどうなんだ?声はまだ子供声だな」とトンは訊ねる。
 「毛もまだうぶ毛だがな。ただ、あの年のころの俺と比べると、あいつは格段にませている。やれと言われたらやれるんじゃ無いかと思う」
 「やれたとしても受胎させるまでいくかどうかは疑問だがな」
とトンは言う。
 ただ、実際にやらせる前にアニの種付けを見せて学ばせるのも良いかも知れない、とトンは思った。
 「アニがかまわないのなら、気付かないふりをしてあえてのぞき見をさせておく手もある」
 「俺はかまわないが、シンには何と説明する?」
 「シンにも言っておくよ。アニは経験無いだろうが、一般乳牛の厩舎へなら、年上の種付けに未経験の年下がついて行くことは珍しいことでは無いし、こっそり覗き見してる子もたまにいる。シンはそれも知ってて見逃してやっているから」
 トンは自分自身が、年上の種付けについていった時のことを懐かしく想い出していた。

 ナギの種付け準備が整ったら、手初めにシチを付けてみるか。細身で小柄で床上手だから若い子には最適だ、とトンは思い、とりあえずアニの種付け候補のうちシチの順番を後ろに繰り下げた。