暑い日だ。こうして梁の上にじっとしているだけで汗が瀧のようだ。俺は今、あにぃの種付け現場に潜入して、天井の梁の上からあにぃたちを見守っている。汗が下に垂れないように注意しなくてはいけない。俺は上衣で何度も顔と首の汗を拭う。
シンに連れられて入ってきた乳牛は、ヤラという大型乳牛だった。
昨日あにぃから聞いた話では、ヤラは4年前の戦のときに捕獲してきた乳牛で、目立つ存在ではあったものの、気性が荒いので種付けが難しく、おぼこでは無いが、妊娠・出産経験は無いらしい。俺のリストから漏れてしまっていたのも無理は無い。
ヤラは、実に立派な体格をしている。骨格がしっかりしていて肉付きも良く、引き締まって厚みのある均整の取れた身体は、どこか毅然とした雰囲気がある。後足で立ち上がったら、たぶんあにぃより背が高いだろう。
乳は二つで綺麗な円錐形をしており、背筋が発達していて背中の線が美しい。くびれた腰が、大きな尻をさらに強調しており、腰にえくぼのようなくぼみがある。何よりも目立つのは、体毛が金色で目が青いことだ。
乳牛にはいろんな種類がいるんだな。以前見たことのある乳牛とずいぶん違う、と俺は思った。腕力だけの勝負なら俺はヤラに負けてしまうかもしれない。でも俺はこの乳牛、嫌いじゃない、と思った。
用心のためなのだろう、あにぃは鞭を持っている。噛み付かれないように轡を装着し、縄を持って来ていたトンはシンと手分けして手際良くヤラの四脚を縄で束ね、無雑作に床に転がした。
ヤラは、見慣れぬ人間が居ることや、いつも優しく世話をしてくれていたシンまでが自分を手荒に扱うのに脅えたのか、床からなんとか立ち上がろうと暴れるが、拘束された四脚はむなしく空を切るだけだ。
俺は少し驚いた。あにぃや年上の馬乗りに聞いた話から想像していた種付けとずいぶん様子が違う。いくら気性難とはいえ、可哀想なくらい手荒に扱うものだな、馬の種付けよりもずっと雑な扱いをするじゃないか・・と思う。