BOSSは30〜40代の白人で日本文化通だ。Tonyは俺と同じくらいの年齢の黒人青年で空手を習っている。BOSSは日本語をかなり理解するし、Tonyは片言でなら少し日本語を話せる。
俺の仕事の初日は、まず映像を見ることだった。BOSSは挨拶をするとすぐに「その人」の様子を見に行くために中座したので、俺は助手のTonyから説明を受けた。 これはBLディスクに入った映像だが、不思議な事に、関係者の誰もこんな撮影はしていないと言う。
ディスク自体はBOSSが買ってきてデッキに入れておいたのと同じものらしいが、BOSSもこんなものが焼かれていたのを知らなかったらしい、とTonyは言う。
それは「その人」の舞踊の練習の映像だった。テニスコートより大きくサッカーコートより小さい体育館のような場所で「その人」が日本舞踊のような能のような、創作舞踊のような踊り(いい加減過ぎる言い方だが、こういう分野に知識の無い自分はそれしか言いようが無い)を踊っている。
初めて見る「その人」が自分より少し年上程度の青年だったのは俺には意外だった。普通のジャージの練習着を着用しているのに足元は白足袋なのがとてもチグハグだが、静かな動きなのにキレがあり、集中しきった緊張感は本番さながらの演技のように思えた。
だんだんと動きが激しくなり集中度も増していっているようで、いつの間にか俺は「その人」がジャージを着ていることを忘れ、それなりの装束をつけて踊っているような錯覚に陥っていた。
「ここでちょっとストップするよ、画面の右上の部分を見て」と言ってTonyが静止画にすると、そこには子供の人形のようなものが薄く映っていた。
「日本人形だと思うけど、何の人形だかわかる?」とTonyが聞いてくるが、俺には全くわからない。
「日本人形の事なんて、ほとんど何の知識も無いよ。スマホがあればなあ、あたりをつけて調べられるのに。おかっぱ頭の男の子だね。俺の乏しい知識からだと、ひな人形の五人囃子が一番近いのかな」
「愛らしい顔してるよね、ちょっと踊り手にも似ているな・・まあいい。先を進めよう。これから先は怖いよ」
とTonyは言う。