>>21
 丘に上がった林の中に、真っ白い乳牛たちが住んでいるらしい。乳牛たちは俺たちと似た形をしているが、中身はずいぶん違うと聞いている。俺たちは肩布腰布を着けているが、乳牛たちは丸裸で暮らしている。
 あそこはちょっと異様な雰囲気の不思議な場所だ。もっと小さかった頃、子供たちはあそこで乳牛たちの乳を吸っていたらしい。つまり俺もあそこに居たはずなんだが、良く覚えていない。
 俺たちと乳牛たちとの接触は無い。乳牛は小屋に入っている時以外は鎖に繋がれていて、太鼓叩きたちが交代で世話をしている。
 たまに、あにぃくらいの年の馬乗りとか船乗りが太鼓叩きに連れられてあそこに入って行く時があるが、なぜ入って行くのかわからない。あにぃはたぶん行ったことは無いんじゃないかと思う。
 あにぃは乳牛が嫌いだ。近くまで行ったとき、あにぃを見た乳牛たちがぎゃーぎゃー鳴いて気味悪かったから嫌いになったと言っていた。
 俺は乳牛をそんなに嫌いでは無いと思う。前の戦いの時に、捕ってきた乳牛を太鼓叩きが丘のほうに連れて行くのをちらっと見たことがある。その時、綺麗だなと思ったし懐かしいような気もした。

 神様は何人か居て、だいじな事は神様が決めているらしい。俺の持論では、良い神様も悪い神様も居るんじゃないかと思う。ずいぶん昔に神様に愛されて集落から召されて神様になった人が居るらしい。その人はきっと良い神様になっていると思う。