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「ところで、俺の使命=乳牛との子作りとは、具体的にどんなことをすれば良いのか?あらかじめ何か準備をしておいたほうが良いのか?」
 トンはアニの質問に驚き呆れた。
「アニ・・アニの感覚はやはり人間離れしている・・準備など何も要らない。具体的には・・昨日ナギがアニにしたことを今度はアニが乳牛にすれば良い。というより種馬が肌馬にするのと全く同じことをすると言ったほうが正確か。種馬は仔馬作りの仕事をしているということだ」
 アニはしばらく思いをめぐらすように黙って考え込んだ後、合点がいったように頷いた。
「そういう事だったのか・・ナギが俺たちのと馬のとでは少し違うと言っていた意味がわかった。俺よりナギのほうが正しいことを言っていた。乳牛のところに行ったことのある馬乗りや船乗りから聞いたことにも、今、ようやく合点がいった」

「ナギを愛しているか?」とトンは訊ねる。
「それはもう。俺たちはずっと一緒だった。ナギがそばに居ない日々など考えられない」とアニは答える。
「しかしそれは心と身体の問題。使命というのはまた別の問題だ。戦に出るのと同じことと位置づければ、俺は気持ちをそういう方向に持って行ける。だから俺は乳牛ともできると思う」とアニは言う。
「心と身体が求めていなくてもか?」
「使命とは、心と身体では無く、知的好奇心と鍛錬の分野に属するものだ。それはそれで誠実なもの、真実なもの。両方併さってこそ自分の魂なのだ。だから大丈夫だ。俺は誠実に鍛錬する」

 ・・そういう思考回路になるのか・・とトンは改めて驚く。アニはもともと交接無しで生まれてきた。だから交接に関する身体感覚がもともと俺たちとは全く違うのだろう。もとは人間であった風神さまとも異なっている部分なのだろう。自然にわかるなどと思っていたのは甘かった。アニには理詰めで説明しないとわからない事だったのだ、とトンは思った。