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(その2)乳牛

「昔々の事だが」とトンは言う。
「乳牛も、元は俺たちと同じような2本足で、話をすることも出来たと言われている。つまり全く俺たちと同じ種の生き物だった。当然、乳牛という呼び名も無く、人間というひとくくりの中の、雄・雌でしか無かった」とトンは言う。
「ところがいつの頃からか、雌だけが必ず4つ足で生まれてくるようになり、話をすることも出来なくなっていった。そして知っての通りの現在の姿だ」
「近隣の集落も皆同じことが起こっているね。戦に行った先でも人間の雌など居なかったし、乳牛は牧場に隔離されていた」とアニも言う。

 「血の煮詰まりに原因があるのでは無いかと我々は考え、戦に勝った先の乳牛を大量に捕獲してきて、なんとか血の煮つまりを解消しようとしてきた。そして少しずつだが改善してきているから、恐らく我々の考えは正しいのだと思う。
4つ足には違いないが、乳牛と俺たちとの中間的な子も少しずつ生まれてきている。遠い血をもっと入れて中間的な乳牛が増えれば、昔のように2本足の時代に戻すことが出来るんじゃ無いかと我々は考えるようになっている」

「風神の血つまり俺の血に何か欠陥があるのだろうか?・・遠い血というと・・ナギは俺たちと血が遠いと言われているが?・・」とアニは訊ねる。
「乳牛の形になったのは風神が生まれるはるか前からのことだ。風神の血自体の問題では無い。昔からのかけあわせ方に問題があって風神を含む集落全体の血に歪みが生じたのだと思う。
そしてアニのいうとおり、そう、鍵はナギなんだ。乳牛問題への反省から、アニを授かったとき、俺たちは、ゆくゆくはアニの血を片方の始祖にし、もう片方の始祖にアニと全く遠い優秀な血を置きたいと考えた。ナギはもう片方の始祖の条件にぴったりあてはまる」